研究実績の概要 |
本年度は、実験と理論計算とを相乗的に融合させ、昨年度見出した反応について基質一般性の拡張、反応機構解析を行い、さらには新規反応へと展開することを目指した。 第一に、酸/塩基反応の開発では、昨年度見出したE/Z異性化可能なニトロンを用いる新規触媒的[3+2]環化反応について、基質一般性の拡張、機構解析に取り組んだ。本反応は、これまで報告しているanti,anti-生成物を与える(E)-ニトロン選択的反応とは異なり、反応系中で(Z)-ニトロンを選択的に認識し、syn,anti-生成物を効率的に合成することができる。様々な配位平衡が存在するNi(II)-エノレート-ニトロンとの相互作用を考慮し、想定される遷移状態を系統的に算出した結果、電子密度分布解析から予想される遷移状態が最も有利であることがわかった。また、(E)-ニトロン選択的反応を進行させるためには、配位子とニトロンとの弱い相互作用が重要な役割を果たすことを明らかにすることもできた。これにより、金属キラリティー上で、i) キラル金属中心による内圏的活性化と、ii) 配位子による外圏的活性化との協働効果の有用性をさらに拡張させることができた。 第二に、ラジカル反応では、比較的寿命の長い持続性三級炭素ラジカル (t1/2 > 1 ms) の検出を起点として、ラジカル-ラジカルクロスカップリング反応の基質一般性の拡張、分子状酸素を酸化剤として用いる酸化的クロスカップリング反応の開発に成功した。酸化的クロスカップリング反応では、触媒の有無により、反応点の位置選択性を制御できることがわかった。また実験化学と計算化学との融合により、その位置選択性の制御機構も明らかとすることができた。
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