研究実績の概要 |
本研究の目的は、平面四座PNNP配位子(2,9-bis(diphenylphosphino)methyl-1,10-phenanthroline) を用いて、高い結合切断能を示す低スピン鉄錯体反応場の創出と、それを用いた新規触媒反応の開発である。2018年度の取り組みにおいて、PNNP配位子を有する電子豊富な鉄(0)錯体1の開発に成功し、これがクロロシラン類のケイ素‐塩素結合の切断という極めて興味深い反応を達成することを見出した。2019年度は本反応の機構解析を進めた。結論のみ述べると、錯体1とラジカルクロックとの反応を検討することにより、本反応はラジカル機構で進行することが示唆された。そこで、ラジカル捕捉剤である9,10-ジヒドロアントラセン存在下で錯体1とSiCl4との反応行うと、系中でトリクロロヒドロシラン(HSiCl3)が生成することを見出した。クロロシランを原料とするヒドロシラン合成は、ケイ素化学工業において最も重要な反応の一つである。本反応は、強固なSi-Cl 結合の切断を伴うため、 LiAlH4 などの高反応性試薬を量論量用いた手法が一般的である。これに対し、本研究では、クロロシランの酸化的付加反応がラジカル機構により進行することで、容易にSi-H結合形成が達成されることが見出された。 以上の取り組みに加え、PNNP配位子を有するコバルト錯体を新たに設計し種々のコバルト(I)錯体の合成単離に成功した。またこれらが種々の炭素‐ハロゲン結合切断に活性であることを明らかにし、さらにこれまでに報告例のない新しい「金属-配位子協同効果」を示すことを見出した。本反応を利用することにより、新しい反応機構に基づいた種々のハロゲン化物の触媒的水素化反応などが達成されることが見込まれるなど、今後さらなる展開が期待される良好な成果が見いだされた。
|