研究領域 | ハイブリッド量子科学 |
研究課題/領域番号 |
18H04286
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
村尾 美緒 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (30322671)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 量子アルゴリズム / 量子動力学プロセッサ / ロバスト量子動力学制御 / 熱平衡化アルゴリズム / 高階量子演算 |
研究実績の概要 |
高階量子演算の枠組みを用いることで未知のパラメータを特定することなく量子系の動力学を制御・加工する「量子動力学プロセッサ」のシステムをハイブリッド量子系で実現することを目指し、現実的な物理系に適応した量子アルゴリズムの探索を行い、次の2つのシステムに関する研究成果を得た。 ハミルトニアン動力学系においてハミルトニアンの一部が未知のパラメータを含んでいる2量子ビット以上の量子系に対して、その未知パラメータを同定することなく、未知パラメータに対してロバストに量子系の動力学を制御し、任意の2量子ビットゲートを実装できる系の存在を示した。また、制御パルス探索の数値解析法を改善することにより、与えられた許容エラーをより小さく設定した場合に対しても、ロバスト動力学制御を実装する具体的な手法を得た。既存の量子制御理論の枠組みでは、ロバスト動力学制御可能か数学的には明らかになっていない系も存在するが、このような系に対しても数値解析を行い、数学的にロバスト制御性が保証されている系と同様に高い精度でロバスト動力学制御が可能となる系の存在を示した。 ハミルトニアン動力学系の熱平衡化を、ハミルトニアン動力学から熱平衡化動力学へと加工するための量子動力学プロセッサとしてとらえ、ハミルトニアン動力学系と量子計算機との相互作用によって対象系の熱平衡化を引き起こす量子アルゴリズムを考察した。通常の量子散逸系のモデルでは、2次のエネルギー遷移での詳細つり合いによって熱平衡化が保証されるが、任意のn次の遷移まで詳細つり合いが成立するような、ハミルトニアン動力学系の熱平衡化を実行する量子アルゴリズムを考案した。考案した熱平衡化量子アルゴリズムを3量子スピン系に適用して数値計算を行い、熱平衡化の指標であるエルゴード性が改善していること、高次の詳細つり合いの系の熱平衡化速度が増加していることを確認した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初、平成30年度は、入力がハミルトニアン動力学で与えられる場合に、近似的に高階量子演算を実装する方法の定式化と、ハミルトニアン動力学の量子動力学プロセッサとして、小規模な量子計算機を用いて逆演算化を近似的に実行する量子アルゴリズムの探索を行う予定であったが、ロバスト量子動力学制御とハミルトニアン動力学系での熱平衡化量子アルゴリズムの研究が国際共同研究として発展したため、これらの研究進展を優先して当初予定していた研究は次年度に行うことにした。研究の順序は変更したが、今年度に新たに実施した研究では、量子動力学プロセッサの新しい方向性を示す興味深い成果を得ることができたため、おおむね順調に進展していると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
昨年度に実施を予定していた、ハミルトニアン動力学で与えられる入力に対して近似的に高階量子演算を実装する方法の定式化を中心に研究を推進する。全ての量子演算の入力に対して完全精度を要求し、入力となる量子演算が1回のみしか使えない場合には、量子計算に有用な多くの超写像が高階量子演算としては実行不可能となってしまうが、ハミルトニアン動力学に対する近似的な超写像の実行のみを保証するように条件を弱めた量子動力学プロセッサとして十分な機能をもつ高階量子演算の実装理論の構築を目指す。ハミルトニアン動力学を入力とする高階量子演算は、時間パラメータを調節することで任意のn乗根が実行できるという一般のユニタリ変換にはない特徴を持つ一方で、ハミルトニアン動力学をスイッチオフすることができない、という新たな制約が加わる点に注目する。特に、ハイブリッド量子系での実装を目指して、ハミルトニアン動力学の量子動力学プロセッサとして、小規模な量子計算機とハミルトニアン動力学系を組み合わせたハイブリッド量子系において逆演算化を近似的に実行する量子アルゴリズムの探索を行う。
|