研究領域 | ハイブリッド量子科学 |
研究課題/領域番号 |
18H04290
|
研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
内山 智香子 山梨大学, 大学院総合研究部, 教授 (30221807)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 光励起輸送 / 自律輸送 |
研究実績の概要 |
近年生物物理分野では、光合成細菌の光捕集分子が光照射によって得た励起エネルギーを光合成の反応中心に100%に近い効率で輸送していることが報告され、実験・理論ともに活発な研究が行われている。その際、光捕集分子内の光励起エネルギー伝送路の環境系が伝送促進の役割を担う可能性が指摘され、注目を集めている。世界的な研究動向の大部分は、環境系の詳細な役割を含む光合成細菌内のエネルギー伝送メカニズムの解明・模倣に向かっている。しかし、本研究は生体機能の模倣にとどまらず、生体の環境系利用ストラテジーそのものを応用し、自律的な励起輸送を引き起こすプロトコルの開発を目的としている。 本研究では、異なる励起エネルギーを持つ2 準位系を幾何学的に配置し、環境系からの影響を各々の励起エネルギーへの揺動印加によって表すモデルを考える。具体的には、環形に配置した2 準位系の各励起エネルギーに時空間相関を保有する揺動を印加することを考える。本研究では、従来、正の領域に限られてきた空間相関を負の領域にまで拡張する。 2018年度においては、3つの2 準位系を環形に配置したモデルに対して、励起準位間の遷移の量子干渉と環境系の時空間相関との競合関係がどのように量子輸送を特徴づけるのか、詳細な調査を行った。その際に、輸送所要時間に加えて、輸送量のダイナミクスも取扱可能な定式化が可能であることが判明した。これにより、環境系の時空間相関により、自律輸送を含めた量子輸送の様相を制御可能であることを示唆する結果を得た。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
異なる励起エネルギーを持つ2 準位系を幾何学的に配置したモデルに対して、本研究の当初の目的である、環境系の時空間相関の性質による量子輸送の様相の制御可能性を示唆する結果を得ることができた。またその際に、光励起輸送所要時間に加えて、輸送量のダイナミクスも取扱可能な定式化が可能であることを発見することができた。 得られた結果については、日本物理学会、応用物理学会及びInternational Conference on Solid State Devices and Materials (SSDM2018)を始めとする複数の国際会議にて発表を行った。また上記内容についての論文投稿準備を進めている。
|
今後の研究の推進方策 |
2018年度に新たに開発した定式化を用いて、さらに多数サイト間の光励起輸送に拡張することにより、量子ネットワーク内での自律的光励起輸送の詳細な条件設定を行う。また、環境系の揺らぎとして、量子論的な性質を保持するように定式化を拡張し、より現実的な状況についての条件設定も行う予定である。この定式化の際には、輸送における非マルコフ効果を取り扱う必要があるが、その基本情報を与える関連研究について、2018年度に出版済みの論文をもとに研究を進める。これをもって、ハイブリッド量子系での輸送現象のもつ新しい可能性の創造と解明を行い、ハイブリッド量子科学における普遍的な概念の創出への貢献を目指す。
|