平成31年度は、多原子強結合共振器QED系を独立に2台構築し、それらを光ファイバーで連結した結合共振器QED系を構築した。前年度と同様、ナノ光ファイバーは、研究代表者が開発したフレームブラシ法に基づく方法により作製した。具体的には、トーチのスキャンプロファイルを最適化し、長さ3mm程度のウェイスト部を持つナノファイバーを作製した。さらに、作製したナノファイバー共振器を新規に設計・作製した金属製真空チャンバーに導入した。真空チャンバー内に生成した磁気光学トラップ中の原子を、ナノファイバー共振器のウェイスト部における2色双極子トラップにロードし、多原子強結合共振器QED系を構築した。このようにして構築した2台の多原子強結合共振器QED系を光ファイバーで連結し、結合共振器QED系を構築した。 構築した全ファイバー結合共振器QED系に対して、原子と光子のコヒーレント相互作用により形成される5つの固有モードを全て分光学的に測定・同定することに成功した。これら5つの固有モードは、明モード、ファイバー暗モード、共振器暗モードに分類される。本研究の最も特筆すべき成果は、共振器暗モードを初めて観測したことにある。一般に暗モードは、コヒーレント結合系における複数の励起の破壊的な干渉により特定の励起が抑制されたモードであるが、本研究で観測した共振器暗モードは、原子からの放射とファイバーからの放射の破壊的な干渉により、原子が存在する共振器中の光子の励起が抑制されたモードである。これは、原子は励起されているにもかかわらず、局所的には電磁場にさらされていない、極めて特異なモードである。さらに、励起光強度依存性から、原子の非局所的な励起と飽和を観測した。
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