本研究の目標は、窒化物半導体と遷移金属ダイカルコゲナイド、グラフェンなどの原子層材料のヘテロ構造(ダブルヘテロ構造)を作製し、窒化物半導体の分極場(自発分極、ピエゾ分極)を利用して原子層材料のバレー・スピン分極、励起子物性などを制御することである。目的達成のため、期間内に「1.ファンデルワールスエピタキシーを利用したダブルヘテロ構造作製法の研究」「2.分極場による遷移金属ダイカルコゲナイド光物性の影響の評価」の2つの課題を進めることができ、以下に示すような成果が得られた。
1.メタルカバーファンデルワールスエピタキシーによるGaN成長 MBE法によるグラフェン上への窒化物半導体結晶成長において、従来は、グラフェンへのプラズマダメージの影響もあり、ナノサイズの結晶の集合体しか得られない状況であった。我々は、成長初期に金属原料(Ga)でグラフェン表面を被覆することで、グラフェンへのダメージを抑制し、薄膜試料が得られることを示した。特に、基板としてGaN上のグラフェンを利用した場合、疑似的なホモエピタキシーの状況を作る”リモートエピタキシー”効果により、結晶異形の混入の少ない薄膜が得られることがわかった。この手法では、ダブルヘテロ構造を直接作ることができる。 2.窒化物半導体極性面による遷移金属ダイカルコゲナイドのバレー分極、励起子物性の違い 分極場による遷移金属ダイカルコゲナイドの物性制御へ向けた第1歩として、極性面のことなる窒化物半導体上に遷移金属ダイカルコゲナイドを転写、成長し、その光物性を計測した。その結果、N極性面上のMoS2の低温(10K)でのバレー分極がGa極性面上より大きくなる傾向がみられることがわかった。N極性面上では荷電励起子発光が支配的となることからわかるように、自発分極がもたらす界面電子密度の上昇がバレー分極に影響していると考えられる。
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