研究領域 | J-Physics:多極子伝導系の物理 |
研究課題/領域番号 |
18H04296
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
速水 賢 北海道大学, 理学研究院, 助教 (20776546)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 多極子 / マルチフェロイクス / トロイダル多極子 / 混成軌道 / 電気磁気効果 / 結晶点群 / 自発的対称性の破れ / 奇パリティ |
研究実績の概要 |
固体中での電子のミクロな自由度を表現する多極子は、多彩な物性現象を理解する上での基礎的枠組みを与える。本研究の目的は、s、p、d、f軌道といった原子軌道間の局所的な軌道混成自由度に着目することで、1原子に内在する磁気・電気トロイダル多極子の微視的な理論形式を構築し、その秩序状態に伴う新奇マルチフェロイクス現象を明らかにすることである。特に本年度においては、以下の成果を得た。
固体中における磁気・電気トロイダル多極子の分類論:ここでは、32の結晶点群のもとで活性化する多極子自由度とそれらがもたらす物性現象を多極子の微視的表現と群論を用いることにより調べた。 まず、実空間および波数空間における多極子の微視的枠組みを構築することにより、4つの多極子(電気多極子、磁気多極子、磁気トロイダル多極子、電気トロイダル多極子)がどのような結晶点群や電子の波動関数の対称性において凍結されずに残り自発的秩序の変数となりうるかを明らかにした。 さらに、それらが活性化した際に生じる電子状態におけるバンド構造の変形や、電気磁気効果や磁気弾性効果における線形応答テンソルの性質を多極子の視点から整理することにより、4つの多極子自由度と物性現象の関係性を示した。こうした多極子による電子自由度の一般的記述は、輸送現象や励起構造、交差相関現象を統一的に理解・予測する上で有益な情報を与えるだけでなく、電場、電流、スピン流、磁場、弾性場、熱流といった種々な外場応答のもとでのさらなる交差相関現象を示す新規物質の探索に指針をもたらすことが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画通り、異なる軌道間の混成により活性化する磁気・電気トロイダル多極子を、量子力学的な演算子により評価するための一般的な表現論を構築することができたため。この表現論により、磁気・電気トロイダル多極子自由度がどのような結晶点群や電子の波動関数のもとで活性化するかが明らかとなり、格子系への適用も可能となったことも理由の一つである。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は、以下の3つに着目して研究を行う。 (1) トロイダル多極子秩序の安定性の数値的解明:ここではトロイダル多極子をともなう秩序状態が発現するために必要な要素を調べる。具体的には、スピン軌道相互作用、異なる軌道間の混成効果、クーロン相互作用の大きさを模型パラメタに取り、数値計算と解析計算を相補的に用いることにより、トロイダル多極子が安定に存在するパラメタ領域を同定する。格子構造としては、異なる軌道間の混成を促すためには、反転中心を持たない正方晶系を用いる。数値計算手法としては、平均場近似を採用し、トロイダル多極子秩序がエネルギー最安定となる相領域を探索する。弱相関・強相関極限においては、摂動展開による解析計算を行い、トロイダル多極子秩序を促す有効的な相互作用の形を明らかにする。
(2) 電気・磁気・歪み・トロイダル自由度間に生じる新奇マルチフェロイクス現象の解析:(1)で得られたトロイダル多極子秩序が実現するミクロな模型に対して、線形応答理論を用い、外場の方向やクーロン相互作用、スピン軌道相互作用の大きさを可変パラメタに取ることで、トロイダル多極子秩序が示す交差相関応答の定性的な振る舞いを明らかにする。また、自由度をくりこんだ有効単一軌道模型と多軌道模型における結果を比較することにより、軌道自由度が線形応答テンソルに与える影響を明らかにする。
(3) トロイダル秩序を示す候補物質の提案:上記の(1)、(2)によって得られた経験・知見を活かして候補物質の探索を行う。d-f軌道間の強い混成を有するウラン系化合物やセリウム系化合物を対象とする。
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