研究領域 | J-Physics:多極子伝導系の物理 |
研究課題/領域番号 |
18H04301
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
大槻 純也 岡山大学, 異分野基礎科学研究所, 准教授 (60513877)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 多極子秩序 / 動的平均場法 / 磁性 / 強相関電子系 / 第一原理計算 / ベーテ・サルピータ方程式 |
研究実績の概要 |
本研究では、密度汎関数法(DFT)と動的平均場法(DMFT)を組み合わせた、DFT+DMFT法と呼ばれる手法を利用して、現実的な結晶構造に由来する複雑な電子状態とf電子間のクーロン斥力に由来する多体効果の両方を考慮した多極子秩序の計算を行う。それにより、フェルミ面の構造や電子の局所自由度などの物質の「個性」と実験で観測されている多極子秩序とを結びつけた定量的な議論を行い、多極子秩序の起源を微視的に明らかにすることが目的である。 DMFT法は重い電子系の研究において成功を収めているが、多極子秩序の研究にはこれまでほとんど利用されていない。多軌道系を扱う複雑さと計算量的困難がその要因である。特に、多極子秩序を導出する上で必要となる波数依存感受率χ(q)の計算は既存の理論では実行不可能である。 そこで本年度は、χ(q)を計算するための近似式を導出した。具体的には、多極子秩序の議論に有用な強相関極限を考え、2体相関(二粒子グリーン関数)を解析した。それにより、良い精度で簡単な関数形に近似できることを発見し、その近似を用いることにより、既存のχ(q)の公式(ベーテ・サルピータ方程式)を数値計算が容易な形に簡単化することができた。数値計算を行い、その簡易式の結果を評価すると、近似の正当性が保証される強相関領域だけでなく、弱相関領域まで元の式と良い一致を示すことが分かった。これは理論の汎用性を示している。 この近似式を用いることで、d電子やf電子の軌道自由度を考慮したχ(q)の数値計算が可能となる。これは、強相関化合物における多極子秩序の第一原理計算の実現に向けた重要な成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はDFT+DMFT法による多極子秩序の計算を実現する近似式を導出した。この新しい式により、既存の方法では実際上不可能であった、d電子およびf電子系における波数依存感受率の計算が可能となった。これは、実用上極めて大きな進展であり、DFT+DMFT法による多極子秩序計算がほぼ実現可能なところまで来たといえる。よって「おおむね順調に進展している」と判断する。
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今後の研究の推進方策 |
本年度に導出した波数依存感受率の近似式を実際の化合物に応用する。具体的には、本課題の目標のひとつである希土類化合物CeB6に適用し、実験で観測されている四極子秩序相が再現できるかを調べる。その結果の是非を検討し、実験との一致が悪ければ理論の再検討をし、良く一致すればさらに別の化合物に適用する。これにより、DFT+DMFT法による多極子秩序計算の基礎を着実に築いていく。
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