本研究では、現実的な結晶構造に由来する複雑な電子状態とf電子間のクーロン斥力に由来する多体効果の両方を考慮することで、多極子秩序の微視的な計算を行うことを目標としている。そのために、密度汎関数法(DFT)と動的平均場法(DMFT)を組み合わせたDFT+DMFT法と呼ばれる方法論に関連した理論の構築を行った。 (1) DMFT法では、波数依存感受率χ(q)を計算することで多極子秩序の秩序変数や転移温度を決定できる。しかし、f軌道の自由度を全て含めて多体効果を考慮することは困難で、これまでは簡単化した模型を用いた定性的な議論しか行われてこなかった。この問題を解決して定量的な議論を可能とするために、我々はχ(q)の導出法を見直し、比較的簡単な計算で実行できる公式を導出した。この公式は、これまで軌道自由度に起因する計算量的困難により実行できなかった現実的な系における多極子揺らぎの計算を可能とするものであり、DFT+DMFT法による波数依存感受率計算の応用範囲を広げるものである。 (2) 軌道自由度や強相関系で重要となる物理量の振動数依存性などの複雑な自由度を効率よく扱うために、データ科学の方法論の応用に取り組んだ。具体的には、スパースモデリングと呼ばれる方法を用いた解析接続法の開発とそれに関連した数値計算ライブラリの公開、irbasisと呼ばれる松原グリーン関数の振動数依存性を極めて効率よく表現できる新しい直交基底系に関するライブラリの開発・公開、スパースサンプリングと呼ばれる方法による一粒子および二粒子グリーン関数の効率的な計算方法を開発した。スパースモデリングに関する招待総説記事を英文誌Journal of the Physical Society of Japanにて出版した。
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