公募研究
本研究では、【I.多軌道超伝導のギャップ構造】と【II.多極子伝導系における新奇秩序状態】の研究に取り組み、個々の発現機構および普遍的性質に迫ることを目的としている。本年度、【I】の課題では、Sr2RuO4、FeSe、Cd2Re2O7の磁場角度分解比熱測定を行った。Sr2RuO4については、極低温比熱の磁場依存性から超伝導ギャップにノードが存在し、多バンド効果は顕著に見られないこと、磁場角度変化から水平ラインノードを持つギャップ構造が有力であることを明らかにした。これらの結果は有力視されるスピン三重項カイラルp波超伝導と整合しない。結果をまとめた論文はJ. Phys. Soc. Jpn.誌で公表した。FeSeについては3つの異なる超伝導ギャップを持ち、一番小さいギャップに縦ラインノードが存在することが分かっているが、僅かなdisorderでノードが消失することを見出した。結果をまとめた論文はPhys. Rev. B誌で公表した。Cd2Re2O7はフルギャップ超伝導であることを低温比熱測定から示し、J-Physics会議で発表した。【II】の課題では、PrTi2Al20の強四極子秩序相とURu2Si2の隠れた秩序相の磁場角度変化について調べた。前者では、磁場が<111>方向から僅かにずれると四極子秩序相転移がcrossoverへと連続的に変化すること、また、基底2重項分裂幅が<100>方向で顕著に変化することを見出した。得られた結果は日本物理学会やJ-Physics会議で発表した。URu2Si2の隠れた秩序の相転移温度は17.5 Kであるが、その温度域で高感度に比熱を測定できる磁気トルクに強い熱量計を新たに開発した。それを用いURu2Si2の比熱の磁場角度変化を詳細に調べ、得られた結果をSymposium:TPFC 2019で発表し、会議参加者と議論や情報交換を行った。
2: おおむね順調に進展している
Sr2RuO4の超伝導ギャップ構造を磁場角度分解比熱測定から詳細に調べ、水平ラインノードを持つ可能性が高いことを明らかにした。結果の詳細をまとめた論文はJ. Phys. Soc. Jpn.誌で公表し、その後は国内外で招待講演の機会を頂くなど世界的に注目を集めている。他の研究課題についても順調に成果が得られており、本研究はおおむね順調に進展している。
課題【I】に関しては、初年度に得られたCd2Re2O7の測定結果を論文にまとめて公表する。さらに、2018年に新ウラン系超伝導体UTe2が発見され、世界的に注目が高まっている。そこで、UTe2の超伝導異方性を極低温比熱・磁化測定から明らかにする。課題【II】に関しては、PrTi2Al20について得られた知見を論文にまとめて公表する。また、URu2Si2については試料依存性を調べて、隠れた秩序相の角度依存性の性質を見極める。結果がまとまり次第、論文にまとめて発表する。さらに、磁場角度分解比熱・エントロピー測定装置を様々な多極子伝導系に応用し、新たな知見を得る。初年度は常圧下での実験から重要な成果を多く得た一方で、圧力下実験の進展は限定的であった。今後は圧力下実験にも力を入れていきたい。
すべて 2019 2018 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 1件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 4件、 招待講演 3件) 備考 (2件)
Physical Review B
巻: 99 ページ: 054506(1-6)
10.1103/PhysRevB.99.054506
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Journal of the Physical Society of Japan
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巻: 87 ページ: 073601(1-5)
10.7566/JPSJ.87.073601
https://sakaki.issp.u-tokyo.ac.jp/user/kittaka/index.html
https://sakaki.issp.u-tokyo.ac.jp/