研究領域 | J-Physics:多極子伝導系の物理 |
研究課題/領域番号 |
18H04308
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
平井 大悟郎 東京大学, 物性研究所, 助教 (80734780)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | スピン軌道相互作用 / 多極子秩序 / 5d電子系 / ダブルペロブスカイト / 四極子秩序 / レニウム化合物 |
研究実績の概要 |
強いスピン軌道相互作用と電子相関に起因したフェルミ面の不安定性は、遍歴多極子秩序を引き起こすことが理論的に提案されている。5d遷移金属化合物Cd2Re2O7は、200 Kにおいて反転対称性を破る構造相転移を示し、この転移が遍歴多極子秩序形成に対応しているのではないかと指摘されている。本研究では、純良な単結晶試料を用いた輸送特性の測定から、Cd2Re2O7における多極子秩序状態の観測とその相転移機構の微視的理解を目的としている。2018年度はまず、本質的な物性を明らかにするために、純良かつ十分な大きさのCd2Re2O7単結晶の育成に取り組んだ。出発原料の精製、反応容器の洗浄法、温度勾配の最適化などを行うことで、残留抵抗比が500を超えるようなこれまでで最も純良な単結晶の育成に成功した。また、3mm程度の大型単結晶育成にも成功しており、様々な測定グループと共同研究を展開している。 2018年度はさらに、本質的な物性を測定する際に問題となる双晶ドメインの制御にも取り組んだ。まず、育成した純良な単結晶試料を偏光顕微鏡で観察することで、ドメイン構造に関する知見を得た。さらに、ピエゾ素子を用いてドメイン構造を制御することにも成功した。一般的な1軸に応力を印加するものに加えて、面内に2軸の圧力を印加できるピエゾ素子も導入し、c軸方向を面内にも面直方向にも自在に制御する手法を確立した。今後、このドメインをそろえた純良単結晶に対して電流誘起磁化の測定などを行い、多極子秩序形成に起因する応答を観測する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度は、物性を明らかにするうえで不可欠な純良かつ大型の単結晶を育成することを最も重要な課題として位置付けていた。事前準備で純良な結晶が得られていた方法にさらなる改良を加えることで、純良で、さまざまな測定を行うのに十分な大きさの単結晶を育成することに成功した。これまで結晶サイズが小さくできなかった測定が可能となり、核磁気共鳴や超音波測定など、複数のグループと共同研究を開始した。これらの多面的な測定によって、これまで明らかになっていなかったCd2Re2O7の相転移に関する知見が得られると考えている。大型単結晶の育成に成功して以降は、2018年度のもう一つの目標であるドメインの制御に取り組んだ。Cd2Re2O7は相転移の際にドメイン構造が形成されてしまい、伝導の異方性や期待される電気磁気応答などの本質的な物性が定量的に評価できないという問題がある。本研究では、ピエゾ素子を使い圧力を印加することでの単一ドメインの実現を目標とした。試行錯誤の結果、試料の厚みや接着剤の選択、圧力印加の方法などを最適化し、すべての温度域で単一ドメインの試料を得ることに成功した。単一ドメイン試料が得られたことによって、2019年度に予定している電流印可しながらの磁化測定などの電気磁気応答観測が可能になっている。このように、当初の計画通りに順調に研究が進められている。
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今後の研究の推進方策 |
2018年度に行った、純良かつ大型の単結晶育成およびピエゾ素子を用いた単一ドメイン試料の実現によって、Cd2Re2O7の本質的な物性を明らかにする準備が整った。2019年度は、この単一ドメイン試料を用いた物性測定により、反転対称性の破れに伴うスピン分裂の詳細を明らかにし、相転移の微視的機構解明に挑む。まず、相転移に伴ってスピン分裂したフェルミ面に起因して現れる輸送特性の異方性をあきらかにする。その後、期待される電気磁気応答を観測するために、電流を印加しながら磁化測定に取り組む。電流の印加方向を変化させながら磁化測定を行うことで、スピン構造を明らかにする。誘起される磁化は非常に小さいことが考えられるので、スクイド磁束系によるマクロな磁化測定以外にも、カー回転によって誘起された磁化を評価するという手法にも挑戦する。
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