希土類Pr化合物PrTi2Al20は、カゴ状クラスターを形成するAl原子によって囲まれた3価のPrイオンがダイヤモンド格子を形成する物質であり、結晶場基底状態が磁気モーメントを持たず高次の四極子や八極子のみを有することから、局在多極子系の最適な研究対象となっている。今年後はこれまでに蓄積したNMRデータの全体を解析し、結果を説明するための現象論およびモデル計算をと合わせて、磁場に誘起される一次相転移の機構を確立し、論文にまとめて公表した。
5d遷移金属酸化物Cd2Re2O7は、二つの温度Ts1=200KおよびT2s=120Kにおいて2段の相転移を示すが、電子系の強いスピン軌道相互作用と電子間相互作用による自発的空間反転対称性の破れがその起源である可能性が指摘されている。昨年度に引き続き111Cd原子核のNMRによって低温相の対称性を微視的に調べた。特に、従来1次相転移があると思われていたTs2近傍において、有限の温度幅を持つ第3の中間秩序相が存在することを明らかにした。共鳴線分裂の解析から、Ts2近傍では高温から正方晶ー直方晶ー正方晶の逐次連続相転移があり、中間相よりも低温相が高い対称性を有するという稀な現象が観測された。更に、酸素サイトのNMRを行った結果、低温秩序相において電場勾配が非整合な分布を示すという予想外の結果が得られた。
結晶場分裂したt2g状態が強いスピン軌道相互作用によって基底4重項を形成するダブルペロブスカイト5d遷移金属絶縁体BaMgReO6について、酸素サイトのNMRを行い、四極子秩序状態に磁場を印加することにより発生する八極子に由来する超微細磁場を観測した。この系の多極子モーメントの分布をを実験的に決定するために、超微細磁場の角度依存性の詳細な解析が進行中である。
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