研究実績の概要 |
立方晶プラセオジム化合物では、結晶場基底状態が非クラマース二重項となった場合、二重項状態がもつ電気四極子や磁気八極子の自由度により多彩な物性が発現する。実際に、非クラマース二重項系PrT2X20(T:遷移金属, X = Zn, Al)では、非フェルミ液体的挙動や圧力誘起重い電子超伝導など興味深い現象が多数報告され、これらは多極子自由度と伝導電子の混成(c-f混成)効果に起因すると考えられている。しかし、これらの物性を統一的に理解する上で、研究対象となる化合物が少ないという問題があった。本研究では、我々が新たに開発した非クラマース二重項系PrRu2X2Zn18 (X = Sn, In)について、二重項状態がもつ多極子自由度が関与する物性を探索し、さらにその圧力や磁場依存性を調べることを目的とした。 本年度は、前年度に多極子秩序を示すことを見出したPrRu2Sn2Zn18について、超音波測定や圧力・磁場下での電気抵抗・比熱測定を進めた。超音波測定では、低温で降温に伴う弾性定数のソフト化が観測され、この系の結晶場基底状態に電気四極子の自由度が残っていることを確認することができた。また、相転移温度の磁場依存性から、PrRu2Sn2Zn18が1.9 K付近で起こす相転移は、強四極子秩序である可能性が高いことがわかった。さらに、圧力下電気抵抗測定では、多極子秩序温度以上で大きな圧力依存性が観測され、強いc-f混成効果の存在が示唆された。これらの結果は、PrRu2Sn2Zn18が非クラマース二重項系における新奇物性の一般的性質を明らかにする上で重要な系であることを示している。
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