研究領域 | J-Physics:多極子伝導系の物理 |
研究課題/領域番号 |
18H04314
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
岡本 佳比古 名古屋大学, 工学研究科, 准教授 (90435636)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 5d電子系 / 空間反転対称性 / 5d遷移金属化合物 / 相転移 |
研究実績の概要 |
本課題では、強いスピン軌道相互作用と強い電子相関の効果が共存する多軌道系である5d遷移金属化合物を中心として、空間反転対称性を破る相転移を示す新しい5d電子系物質の開発と、局所的に空間反転対称性を破る5d電子系物質における新超伝導体探索を行う。それにより、パリティ混成に駆動される電子相転移や、奇パリティ多極子が関与する非従来型超伝導といった、空間反転対称性に起因する興味深い電子現象を発見する。平成30年度において、(a) 空間反転対称性を破る構造相転移を示すβ型パイロクロア酸化物CsW2O6の物性解明と、(b) 空間反転対称性が破れた結晶構造をもつPt化合物における新超伝導体探索を行った。 (a) これまでの研究で、β型パイロクロア酸化物CsW2O6の215 Kにおける金属絶縁体転移において、立方晶の対称性を保ちながら空間反転対称性を破る構造相転移が生じることを単結晶X線回折実験により明らかにした。平成30年度には、単結晶試料を用いたラマン分光実験などの各種の物性測定を行うことにより、この相転移における対称性の変化を詳細に検討し、立方晶の対称性が保たれていることを支持する結果が得られた。また、Wサイトに各種の5d遷移金属元素を化学置換した試料の合成および物性測定を行い、215 K以下の磁化や電気抵抗率が化学置換により大きく変化するにもかかわらず、転移温度がほとんど変化しないことを見出した。 (b) 空間反転対称性が破れた立方晶の結晶構造をもつBaPtPおよびPtSbSの多結晶試料を合成した。断熱消磁法によりこれらの多結晶試料を用いた低温電気抵抗測定を行うことにより、両物質が超伝導転移温度約0.1 Kの超伝導体であることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度に、Pt化合物を対象として集中的に新超伝導体探索を行い、BaPtP、PtSbSという二つの物質系においてゼロ電気抵抗を観測した。両物質共に対称性の高い立方晶の晶系でありながら、空間反転対称性が破れた結晶構造をもつ。空間反転対称性の破れに起因する非従来型超伝導実現の可能性が期待される。Pt化合物については、これらと並行して物質探索により新物質を見出しており、今後、超伝導性を含む物性解明が望まれる。また、β型パイロクロア酸化物CsW2O6については、単結晶試料を用いたラマン分光測定など各種の精密物性測定を行い、空間反転対称性の破れを伴う相転移の物性解明を進めた。このように、本課題の研究は概ね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
平成31年度において、以下の(a)、(b)の方針に従い新物質開拓、純良試料合成、各種物性測定を行うことにより、空間反転対称性の破れが特徴的な形で電子物性に現れる5d電子系物質を確立する。 (a) BaPtPとPtSbSの超伝導 BaPtPおよびPtSbS多結晶試料を用いた低温の磁化・比熱などの測定を行い、バルク超伝導性を確立する。気相輸送法やフラックス法を用いて単結晶試料を合成し、常伝導相・超伝導相の電子物性を解明する。元素置換した試料の合成を行い、超伝導転移温度の上昇を目指す。 (b) Pt・Ir化合物の新超伝導体探索 局所的に/結晶全体として空間反転対称性が破れた結晶構造をもつPtおよびIr化合物の新物質探索を行い、新超伝導体を見出す。また、平成30年度に見出したPt化合物系の新物質の結晶構造の同定、電子物性の測定を行い、興味深い電子物性の有無を検証する。
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