研究領域 | J-Physics:多極子伝導系の物理 |
研究課題/領域番号 |
18H04318
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
藤本 聡 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (10263063)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 超伝導 / 異常ホール効果 / ベリー曲率 / 強磁性 |
研究実績の概要 |
重い電子系超伝導体であるTh置換されたUBe13の新規物性について研究を行なった。時間反転対称性の破れた超伝導相のクーパー対を同定するため、これまでの実験研究から示唆されている2つの有力候補対状態であるE表現のワイル超伝導状態とA表現の非ワイル超伝導状態について、それぞれの物性について調べた。表面低エネルギー準粒子状態をBogoliubov-de-Gennes方程式の解析によって調べ、対状態の違いによる特徴の違いを明らかにし、さらにスピン帯磁率の温度依存性の振る舞いに現れる両者の違いを明らかにした。特に印加磁場の方向による温度依存性の違いが、両者の対状態を区別する上で有用であることが分かった。この結果は、将来の実験研究で本物質の超伝導対状態を決定する際に、重要な情報を与えるものである。さらにE表現状態で発現することが期待される異常熱ホール効果について調べるため、量子補正を含む準古典近似理論を定式化した。熱ホール効果にはE表現状態が生み出すBerry曲率の効果が重要であり、それを量子補正によって取り込んだ準古典近似の方法を開発した。この新しい手法に基づいて、簡単なモデルに対して熱ホール伝導率の計算を実行し、熱流の空間分布について詳細な結果を得て、この方法の有用性を確認した。開いた境界を持つ系や、空間的不均一性を有する系においてBerry曲率に由来する熱ホール流を計算する方法はこれまで確立されていなかったので、本結果は非自明なBerry曲率を有する超伝導体の輸送現象の理解に向けて重要な進歩をもたらすものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本課題の2つのテーマであるTh置換されたUBe13の多重超伝導相の解明とウラン系強磁性超伝導の研究のうち、前者について大きな進歩を達成した。特にBerry曲率による量子補正を含む拡張された準古典近似の方法を確立したことは、開いた境界を有する系や、空間変化する外場の下でのBerry曲率由来の超伝導輸送現象を理解する上で重要な進歩である。Berry曲率由来の異常熱ホール伝導率に関する従来の計算方法は、無限系や空間均一な系にのみ適用可能であった。また、表面状態の有効理論に基づく計算も先行研究にはあるが、超伝導ギャップ・ノードによるバルク準粒子が存在する系には適用できない。それに対して、本研究で開発された方法はいかなるタイプの超伝導にも適用可能で汎用性が極めて高く、非常に画期的な成果といえる。本成果によりTh置換されたUBe13に関する研究課題はほぼ完成に近づいており、この点で進捗状況は非常に良好と評価される。他方、ウラン系強磁性超伝導の研究については、最近の実験によるUTe2の発見に触発され、この系で観測されている巨大上部臨界磁場の起源を理解する上で重要な非ユニタリ対状態でのスピン磁化率について計算を開始しているところであり、これについても2019年度の前半までに大きな進展を得ることが見込まれる。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、Th置換UBe13で実現している多重超伝導相を解明するため、候補となっている対状態における磁気応答、輸送現象について調べ、それぞれの対状態に固有の特徴的な物性を明らかにする。特に昨年度に開発した量子補正を含む拡張された準古典近似の方法をこの系の具体的なモデルに対して適用し、熱ホール効果の全貌を明らかにする。 ウラン系強磁性超伝導については、最近実験で発見されたUTe2に焦点を当て、常磁性正常金属相から非ユニタリー超伝導相への1次相転移を特徴付ける固有の現象を明らかにする。さらに実験で観測されている巨大上部臨界磁場の起源を明らかにするため、横磁場によるパウリ対破壊効果と軌道対破壊効果を取り入れた上部臨界磁場の計算を行う。特にこの物質の電子状態の特徴であるcompensated metalとしての性質に着目し、それが上記の現象に与える影響を解明する。 また、強磁性超伝導体UCoGeにおける圧力誘起の強磁性相と常磁性相への転移に伴う超伝導状態の転移の可能性について研究を進める。特にUTe2の研究と関連して、常磁性相での非ユニタリ状態の実現可能性についても調べる。
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