公募研究
RM2Al20(R=希土類, M=Ti,V, Cr)やCeT2Al10(T=Ru,Os)、およびCrAsなどの、多極子相互作用が起源と考えられる異常な超伝導や磁性を示す新物質が発見され、大きな注目を集めている。これらの異常現象には磁性イオンが持つ多極子と伝導電子の相互作用が重要な役割を果たしていると考えられており、個々の物質のフェルミ面や状態密度などの電子状態の特異性が深く関与している可能性が非常に高い。そこで本研究では、これらの物質の高品質単結晶化を行い、ドハース・ファンアルフェン(dHvA)効果やシュブニコフ・ドハース(SdH)効果等の量子振動測定からその電子状態を観測し、多極子相互作用との相関を明らかにすることを目的とした。本年度に行なった主な研究内容は以下の通りである。(1)NdV2Al20では大きな電子比熱係数を示すことが実験的に明らかにされ、この系を含むNdM2Al20ではマルチチャンネル近藤効果が実現しているのではないかと理論的に示唆されている。本研究ではNdTi2Al20の純良単結晶育成に成功し、dHvA効果測定に初めて成功した。その結果、観測されたサイクロトロン質量が最大でも約4m0(m0は真空中での電子の静止質量)とそれほど重くないことが明らかとなった。(2)非自明な反強磁性を示すCeRu2Al10のSdH効果や磁気抵抗の異方性から、磁場方向がH//aでのみ12T付近に異常を示すことを報告していたが、本研究ではホール効果を測定することにより、この磁場でホール抵抗の急激な増加を観測した。(3)圧力誘起超伝導体CrAsの高圧下dHvA効果測定に成功し、初めてフェルミ面の観測に成功した。
2: おおむね順調に進展している
単結晶の育成から希釈冷凍機でのdHvA効果測定装置の立ち上げまで,計画は順調に進んでいる。特に,CeRu2Al10のH//aでのホール抵抗率の増大を観測し,フェルミ面変化の兆候を捉えたのは、今後の研究方針を与える。上記の成果はまだ論文として出版はしていないが、日本物理学会で2件(口頭1件、ポスター1件)の発表を行なった。また、今後行われる強相関電子系の国際会議(SCES2019)で発表する予定である。おおむね順調に進展していると判断する。
RM2Al20に関しては、未だに純良単結晶化に成功していないPrV2Al20の結晶育成に取り組んで行くとともに、この系の異常な物性を全体的に俯瞰するため、Pr以外の希土類元素についても着目し研究を行う。例えばSmTi2Al20は磁場に鈍感な重い電子系として注目されている。以前、我々は0.5 KまでのdHvA効果測定より一部のフェルミ面の観測に成功しているが、本研究で立ち上げた希釈冷凍機を用いて、さらに低温でこの物質の主要なフェルミ面の観測を行う計画である。また、CeT2Al10については、高圧下で反強磁性が抑制され重い電子状態へと変遷することが電気抵抗測定から示唆されているので、本研究では高圧下dHvA・SdH測定から直接重い電子状態を示すフェルミ面観測を行う計画である。
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