研究領域 | J-Physics:多極子伝導系の物理 |
研究課題/領域番号 |
18H04323
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
小林 達生 岡山大学, 自然科学研究科, 教授 (80205468)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 多極子秩序 / 超伝導 / Cd2Re2O7 / 高圧 / パイロクロア |
研究実績の概要 |
高圧下のCd2Re2O7において、空間反転対称性が失われる構造相転移(Ts1転移)が消失する臨界圧力Pc近傍でp波超伝導の兆候が観測され、これに注目した研究を行っている。本研究では、高圧下比熱・NMR 測定により超伝導ギャップの圧力変化を明らかにするとともに、ホール効果測定によりTs1転移のゆらぎ(パリティゆらぎ)効果を実験的に探索することを目的としている。 H30年度は高圧下ホール効果測定と比熱測定を中心に研究を行った。ホール効果測定は4.7 GPaまでの測定に成功し、圧力-温度相図に対応したホール係数の変化が観測され、各相でフェルミ面が大きく異なることを明らかにした。常圧でのホール係数の温度変化についても、各相での振舞いを明らかにしたのはこれが初めてである。低温相でのホール係数は電子に比べてホールの移動度が減少している傾向を示しており、バンド計算で予測されたホールバンドの分裂による有効質量の増大で説明できる。ゆらぎ効果については、I相において室温からTs1に向かってホール係数が減少することが広い圧力範囲で観測された。これと同様の振舞いは電気抵抗の温度変化にも現れている。低温極限ではホール係数は一定値に近づく振舞いを示しており、ゆらぎ効果による異常は観測されない。光交流法比熱測定は6.5 GPaまでの測定に成功し、超伝導転移による明瞭な比熱のジャンプを観測した。転移温度や臨界磁場Bc2の圧力変化は電気抵抗測定から決定された以前の実験結果に一致しており、高圧下におけるBc2の増大がバルクの性質であることが明らかになった。超伝導ギャップの圧力変化を調べるために、超伝導状態での比熱の定量的評価を試みたが、試料の熱伝導が悪くなるために交流法や緩和法では不可能であるという結論に至った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H30年度は高圧下ホール効果測定が概ね終了し、圧力誘起相の電子状態やパリティゆらぎ効果の知見も得られており、研究は概ね順調に進展していると言える。比熱測定による超伝導研究はうまくいかなかったが、超伝導転移や臨界磁場の圧力変化がバルクの性質であることが確認され、本質的であることが明らかになった。研究成果は現在論文作成中である。
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今後の研究の推進方策 |
高圧下での超伝導ギャップの対称性の決定については、NMR/NQRが最も重要である。現時点では京大グループとの共同研究で高圧実験を行っており、Re-NQR信号の観測に成功したところである。今後、緩和時間T1 のコヒーレンスピークと温度依存性から,超伝導ギャップの圧力変化を明らかにする。 Cd2Re2O7では低温相(IIおよびIII)ではマルチドメインの結晶になるため、電子状態が明らかになっていない。最近、東大物性研の廣井グループで、ピエゾ素子を用いて結晶軸をそろえることに成功している。この技術を導入してシュブニコフ-ド・ハース(SdH)効果の観測を行い、フェルミ面を明らかにする。その延長として、応力を加えた試料で結晶軸をそろえられれば、SdH効果から圧力誘起相の電子状態を明らかにできる。
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