研究領域 | J-Physics:多極子伝導系の物理 |
研究課題/領域番号 |
18H04324
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
梅尾 和則 広島大学, 自然科学研究支援開発センター, 准教授 (10223596)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | キラル磁性体 / 高圧力 / 比熱 / 磁気抵抗 / ホール効果 / キラルソリトン格子 |
研究実績の概要 |
キラルな結晶構造をもつYbNi3Al9は希土類化合物として初めて磁場中でキラルソリトン格子(CSL)と呼ばれる特異な長周期磁気構造をもつことが近年明らかにされた。一方,同型構造のYbNi3Ga9は常圧では価数揺動状態にあるが,加圧すると臨界圧Pc=9 GPa以上で磁気秩序を示す。そのPc近傍で比熱や磁化の非フェルミ液体的挙動や未報告であり,超伝導も見つかっていない。我々はPc以上の磁気秩序状態で磁場誘起の比熱異常を見出し,そのCSLやスキルミオンの可能性を指摘した。本年度はYbNi3Ga9の圧力誘起磁気相でのCSLやスキルミオンの可能性を調べるため,12 GPaまでの比熱と磁気抵抗およびホール効果を測定した。 まず,11 GPa以上で磁場をらせん軸のc軸に垂直に印可したときに見られた磁場誘起の磁気秩序相が,磁場をc軸に平行に印可しても現れるかを確かめるため,11 GPa以上で磁場中比熱を測定した。その結果,磁場をc軸に平行に印加した場合は磁場誘起磁気相は現れなかった。したがって,上記の磁場誘起磁気相は磁場をc軸に垂直に印可したときのみ現れる相であることが判った。 また,11 GPa以上のホール抵抗には,スキルミオン相で観測された付加的な成分は観測されなかった。一方,磁場‐温度相図における常磁性状態との間の相境界近傍でのホール係数の増大はYbNi3Al9のそれと似ている。さらに,YbNi3Ga9の磁気秩序相内の磁気抵抗の磁場依存性がCSLをもつYb(Ni0.94Cu0.06)3Al9のそれとよく似ていることはYbNi3Ga9の磁気秩序相内でCSLが実現している可能性を示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
YbNi3Ga9の12 GPaまでの比熱と磁気抵抗およびホール効果の測定まで,計画は順調に進んでいる。特に,圧力下磁場中比熱で観測された磁場誘起磁気相が磁場をらせん軸のc軸に垂直に印加した場合のみ観測されることを明らかにした。また,12 GPaまでの磁気抵抗とホール効果の測定に成功し,圧力誘起の磁気秩序相における伝導現象がキラルソリトン格子を形成する同型化合物のYbNi3Al9のそれとよく似ていることを明らかにした。それらの成果は本年度Physical Review B. に1編の論文として公表するとともに,アメリカ物理学会の会議で口頭発表1件と国内の学会で4件の発表を行ったので,おおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
次年度では,YbNi3Ga9のPc=9 GPa近傍における比熱と磁化および電気抵抗の非フェルミ液体的挙動,さらに超伝導の探索を行う。また,姉妹物質である同型化合物のYbNi3Al9の磁気秩序の圧力変化についても並行して研究を進め,YbNi3Ga9の結果と比較する。 比熱と電気抵抗測定には,これまでに使用してきたブリッジマンアンビル型の圧力セルを用いる。また,磁化測定には小型のブリッジマンアンビルとキャパシタンス式磁力計を組み合わせた測定システムを立ち上げる。それらの測定をPc近傍の狭い圧力と磁場範囲で精密に行うため,昨年度の終わりに導入した新しい超伝導磁石を用いる。それらの成果と昨年度末に行った圧力下における磁気抵抗とホール効果の測定結果を論文化する。それらの成果をまとめて,希土類キラル磁性体の量子臨界現象に結晶のキラリティがどのような影響を及ぼしているか,また,理論家の協力を得て,希土類キラル化合物の圧力誘起キラルソリトン格子の可能性について理解を深める。
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