研究領域 | J-Physics:多極子伝導系の物理 |
研究課題/領域番号 |
18H04327
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
松平 和之 九州工業大学, 大学院工学研究院, 教授 (40312342)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | イリジウム酸化物 / フラストレーション / 非フェルミ液体的 / フォノン分散 / ラマン散乱 / X線非弾性散乱 |
研究実績の概要 |
テーマ(A) パイロクロアNd2Ir2O7における磁気八極子秩序による量子臨界現象 松平はヘリウム3クライオスタットを用い,ホールドープされた(NdCa)2Ir2O7の電気抵抗を0.35Kまで測定し,Ca7%で1.5K,Ca10%で1.1Kで磁気転移を示すことを確認した。研究協力者の渡邉(理化学研究所)はミュオンスピン緩和による磁気秩序状態および磁気揺らぎの解析を進め論文投稿準備中である。 テーマ(B) 1次元鎖三角格子系Ca5Ir3O12における非線形伝導と105Kの相転移の機構解明 松平は非線形伝導による高調波応答の研究を行い,その非線形性や温度依存性の詳細を明らかにした。研究協力者の中村(九工大院工)は第一原理計算によるフォノン分散の計算を行った。また,中村が開発した第一原理多体摂動計算 コードRESPACKを用いてCa5Ir3O12の低エネルギー有効模型導出を進めている。研究協力者の長谷川(広大院総科)と単結晶を用いたラマン散乱の実験を行い,105K以下の低温で新たにピークが出現することを明らかにした。また,観測されたΓ=0でのフォノンモードのエネルギーが,スピン軌道相互作用を考慮した計算値の方がより良く一致することがわかった。研究協力者の筒井(SPring-8),長谷川(広大院総科)と単結晶を用いたX線非弾性散乱を行った。ブリリュアンゾーンのΓ-M及びΓ-K-Mにて25meV以下のフォノン分散の測定に成功した。観測されたフォノン分散はスピン軌道相互作用を考慮した計算結果とほぼ一致することを確認した。また,105 Kの相転移に関連した分散の温度変化が観測された。 得られた研究成果は,日本物理学会及び国際会議(JEMS2018)にて発表を行った。また,研究成果に関する招待講演を3件(国内学会,研究会,国際ワークショップ)行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
テーマ(A) 「パイロクロアNd2Ir2O7における磁気八極子秩序による量子臨界現象」については,論文としてまとめている段階にあり,順調である。また,Y系やEu系でのホールドープ効果の研究も進んでいる。 テーマ(B)「 1次元鎖三角格子系Ca5Ir3O12における非線形伝導と105Kの相転移の機構解明」については,ラマン散乱やX線非弾性散乱の測定から105Kでの構造変化の兆候が確認された。その実験結果が第一原理計算から得られたスピン軌道相互作用を考慮したフォノン分散の計算結果とほぼ一致することが明らかになった。イリジウム酸化物におけるフォノン分散の測定及び計算との比較考察を行ったのは,世界初の成果である。
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今後の研究の推進方策 |
・今後の推進方策 Y系やEu系でのホールドープにより出現する非フェルミ液体的電気抵抗について,その詳細を明らかにする。非線形伝導のメカニズム解明のために,ホール効果などの輸送特性の研究を行う。理論的な解明に向けた低エネルギー有効模型導出を行う。 ・計画の変更 現在,液体ヘリウムの購入が難しい状況にあるため,液体ヘリウムも大量に使用するヘリウム3を用いた極低温測定は中止する。代わりに,3次元マイクロマニュピュレータを導入し,微小な針状単結晶への端子付けを可能とするようする。これによりホール効果などの輸送特性が測定可能となる。
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