前年度に引き続いて当年度は、中希土類系の価数揺らぎと重い電子状態について、取り組みを行なった。 まずEu系について、f6およびf7配位の特徴を考慮し、遍歴的f電子と局在的f電子が分離共存するモデルにおいて価数揺らぎをもたらすcf混成を導入した。その上で、価数揺らぎと連動した磁性の発現機構について、平均場近似による解析を行なった。その結果、磁性・非磁性の相境界はf電子間のフント結合に依存して大きく変化し、フント結合が大きい領域では価数ゆらぎが磁性と協力的に、小さい領域では競合的になることが分かった。こうした結果は、圧力効果や置換実験において、物質により磁気転移温度が多様な変化を示すことと対応すると考えられる。また、中間価数領域での秩序状態の安定化において、f6配位での励起3重項(J=1)の存在が極めて重要であることも明らかになった。 以上の平均場解析を踏まえ、f6近傍の価数を有するEu系に対する中性子非弾性散乱の実験結果を理解するため、平均場解からの揺らぎを取り込み、乱雑位相近似による磁気励起の解析を行なった。散乱強度のEu価数に対する依存性の導出と対応する実験との比較から、現実物質でf6励起状態が価数揺らぎにより再構成されることを確認した。 次にSm系については、磁場鈍感重い電子状態の解析を前年度からの継続課題として推進した。簡単化された有効不純物モデルの枠内で、有限磁場におけるフェルミ液体効果に関して、数値くり込み群(NRG)による解析を行なった。磁場中でも量子転移が存在することを確認し、転移点や臨界的性質の磁場変化を調べた。一方、強磁場領域では局在準位の交差が生じ、その近傍で2チャンネル近藤モデルと類似の有効ハミルトニアンが得られることが分かった。現在、NRGの計算結果が、強磁場有効ハミルトニアンにおける過剰遮蔽効果として解釈できる可能性を詳細に調べている。
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