研究領域 | J-Physics:多極子伝導系の物理 |
研究課題/領域番号 |
18H04331
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
水戸 毅 兵庫県立大学, 物質理学研究科, 教授 (70335420)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 多極子 / 反強四極子 / NMR / NQR / CeB6 / SmS |
研究実績の概要 |
Ce系化合物CeB6は反強四極子(AFQ)秩序を示す典型物質と考えられてきたが、その秩序機構が明らかになっているのは磁場下での状態であり、ゼロ磁場や極弱磁場下での秩序状態については実験的証拠が少ないために不明な点が多い。申請者らは、この物質のゼロ磁場下AFQ相について調べるため、まずは測定周波数が非常に低いために困難な11B-核四重極共鳴(NQR)測定を世界で初めて成功させ、AFQ秩序による局所電荷分布の変化を調べた。これまでゼロ磁場下AFQ状態については、磁場下での結果を延長させることによって類推されてきた部分が大きく、もしそれが正しければNQRスペクトルに分裂が生じるはずであるが、本研究では実際にはそうならないことが示された。この結果についてさらなる検証を行うため、申請者らは磁場中でのAFQ秩序構造同定に用いられた11B-核磁気共鳴(NMR)測定を超弱磁場下で行った。その結果、NMR測定で観測されるAFQ状態に特有の内場の発生が、有限の0.06T程度以下で消失することが明瞭に観測され、ゼロ磁場下での状態が磁場中状態とは異なることがさらに確認された。本研究の重要性は、NQR/NMR測定に特有の低周波プローブによってAFQ状態の動的情報を得たことである。つまり、NQR/NMR測定によってAFQ秩序が観測されなくなることは、AFQモーメントがこれらの測定周波数より速く揺らいでいることを示唆しており、AFQモーメント液体状態という新しい相状態が実現している可能性がある。また、本研究では、過去に例の無い1MHzを大きく下回る超低周波数領域にてNQR測定に成功しており、これまでの測定領域を大きく拡大したという技術的側面からも意義が大きい。 本研究では、価数揺動物質SmSの3GPa超高圧下での33S-NMR測定にも成功している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
伊賀教授(茨城大学)からCeB6の粉末試料の提供を受け、11B-核磁気共鳴(NQR)信号の観測に世界で初めて成功した。その温度依存性(2.5~4K)を測定した結果、反強四極子(AFQ)秩序温度(TQ=3.3K)以下で、NQR周波数がシフトする傾向は観測されたものの、形状には実験精度の範囲内で変化が検出されなかった。この結果は、磁場中で予想されているAFQ秩序構造とは相容れないものである。上記の結果を検証するため、磁場中で行う11B-核磁気共鳴(NMR)測定を0.1T以下の弱磁場下で行い、磁場を下げていった。現段階では約0.05Tまで磁場を下げることに成功し、AFQ秩序を特徴づける内場が有限の磁場(0.06T近傍)で消失する様子を確認した。以上の二つの実験結果は、ゼロ磁場下と磁場下ではAFQの秩序状態が異なることを示唆している。これらの結果について、多極子秩序に関する理論の専門家(倉本教授(高エネルギー加速器研究機構)、播磨教授(神戸大学)、大槻准教授(岡山大学))とも議論を行った。 価数揺動物質SmSの圧力誘起半導体(非磁性)-金属(磁性)転移をNMR測定によって調べるため、33S濃縮した試料の作製を芳賀研究主幹(日本原子力研究開発機構)に依頼し、高圧下NMR測定に成功した。特に、北川講師(東京大学)の協力を得て、3GPaの超高圧測定を実現させた。33S-NMRスペクトルの測定の結果、3GPaの低温下(10K以下)では試料の殆どの割合が圧力誘起磁気秩序状態にあることが分かった。また、NMR信号強度は一般に温度上昇に反比例して減少し、また今回の超高圧下での測定に用いている試料量が非常に微量であるため、高温下での測定が行えるかどうかが不安であったが、少なくとも約100Kでも十分な信号強度が得られることが確認された。
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今後の研究の推進方策 |
CeB6に関する低周波核四重極共鳴(NQR)/低磁場核磁気共鳴(NMR)測定について、より好条件で測定を行うために測定条件の最適化を行っており、信頼性の高い測定データに置き換えていく。また、得られた測定データを適切に解析するための手法を確立する。必要に応じて、理論家に協力を求めていく。 本研究の初年度までに行った測定は粉末試料を用いたものであったが、11B-NMR測定を行うにあたり、内場の出現には結晶異方性があるために解析が複雑になる点が問題である。そこで、単結晶試料を用いた測定を計画するが、単結晶試料を用いた場合信号強度が大幅に減少することが予想されるため、薄板上の試料を重ねる等、試料成型について工夫が必要になる。試料提供者である伊賀教授(茨城大学)と連絡を密に取りながら、計画を進めていく。加えて、これまでの測定は外部磁場を掃引する手法で行ってきたが、誘起される内場には磁場依存性があるため、固定磁場下での測定(周波数掃引)が理想的である。従って、周波数掃引測定を自動化するシステムの開発を行う。 SmSについて、3GPa下での33S-NMRスペクトル測定を詳細に行い、圧力下発生する磁気秩序構造について考察を行う。また、核スピン格子緩和率の温度依存性を測定し、磁性の起源となる4f電子状態について微視的な情報を得る。その後、北川講師(東京大学)との協力のもと、圧力を段階的に上昇させ(~6GPaまで)、磁気秩序構造と4f電子状態の圧力変化について調べる。 上記以外に、新たな物質の測定を計画する。Sm系化合物の候補物質として、11B-NQR技術が適応できる価数揺動物質SmB6のNQR測定、価数秩序が生じている可能性が高いジグザグ鎖構造を有するSm3TiBi5等を挙げる。
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