公募研究
多極子超伝導の可能性として、本年度は、主として2つのテーマについて研究した。一つは、CeCu2Si2の超伝導、もう一つは層状BiS2超伝導についてである。まず前者のCeCu2Si2について、その強い電子相関の効果は、海外を中心に発展しているDFT+DMFT法の独自コードを利用して計算を行った。得られた電子状態のフェルミ準位付近の構造は、以前、LDA+U法で計算したのと同じく、Ce(4f)軌道のJ=5/2, Jz=±3/2が主成分となった。しかし、この電子状態における多極子感受率の計算では、以前得られた磁気8極子のゆらぎよりも電気4極子ゆらぎの方が増強された。これは、LDA+U法まわりでの乱雑位相近似では見逃されていた結晶場励起の自由度からくるゆらぎであると考えられる。もし、このゆらぎが超伝導の引力源として働くならば、局所引力によりs波超伝導が実現される可能性がある。これはちょうど、最近の実験で議論されているs波超伝導と整合する。しかし、今回の計算に利用した温度は数10K程度であり、この電気4極子ゆらぎが磁気8極子ゆらぎに打ち勝って超伝導の引力源となりうるかについてを議論するには、もう一桁、温度を下げて調べる必要がある。次に、層状BiS2超伝導については、Bi-Bi間に加えて、Bi-S間の引力も考慮し、局所的なゆらぎから異方的なギャップ構造が出現する可能性について研究した。この系では、マクロ測定で等方的なギャップが提案されているが、角度分解光電子分光では非常に大きなギャップ異方性が観測されている。この矛盾がどのように解消されるか興味が持たれるが、もしBi-S間の相互作用が強ければ、実験的に見られるような異方的s波ギャップが得られることが明らかになった。
3: やや遅れている
CeCu2Si2に対して実行したDFT+DMFT法では、初期状態依存性が大きく、正確な結論を出すためには電荷密度を自己無撞着に計算する必要がある。このコード化に予想以上の時間がかかってしまったため、今期は結論にはたどり着けなかった。また、BiS2超伝導に関しては、はじめスピン軌道相互作用を含んだ計算を念頭に置いていたが、本物質がノンシンモルフィックな系であるためにギャップ構造の計算において対称化の手続きが難しく、こちらも結論にはたどり着けなかった。
つい最近、電荷密度を自己無撞着に計算するDFT+DMFTの独自コードが完成した。これをCeCu2Si2に適用することで、この物質の電子状態および超伝導状態を詳細に研究する。また、BiS2超伝導に関しては、スピン軌道相互作用を取り込んだモデル計算において超伝導の計算を行い、物質表面での状態も調べる予定である。これらの研究を通して、多極子超伝導の一般的な性質を明らかにする。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件)
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