銀河の質量や宇宙物質密度の大半を占める暗黒物質の正体は何か。この問題は現代物理学における最も重要な課題である。宇宙の中で1メガパーセックを超える大規模構造は、冷たい暗黒物質とよばれる素粒子によって説明可能であることが知られていて、宇宙の暗黒物質に関する標準理論になっている。しかし、銀河系や衛星銀河の空間スケールをみると、冷たい暗黒物質の理論予言と矛盾する観測事実が報告されており混沌とした状況にある。この問題の鍵は、銀河系やその衛星銀河などの近傍銀河の理解であり、特に、ミッシングサテライト問題の解明に向けて銀河系に付随する矮小銀河の数分布の決定することが重要となる。 本研究では、現在進行中のすばる望遠鏡の超広視野カメラを用いた観測データを用いて、系統的に衛星銀河の探査を進めてきた。そして、昨年度に引き続いて新たに1個の衛星銀河を発見し学術論文として発表した。そして、これまでの衛星銀河の発見率が冷たい暗黒物質の予言と大きく矛盾しないことが確実となってきたが、その最終結論に当たっては、衛星銀河の銀河系内における動径分布、特に観測が困難な銀河系ハローの外側における動径分布を導出することが重要であることがわかった。 今年度は上記の問題だけでなく、暗黒物質の大規模構造が作りだすボイド構造の統計に関わる問題、暗黒物質が原始ブラックホールであった場合のその重力レンズ効果の観測、といった諸事項においても重要な研究結果を獲得し学術論文を出版することができた。
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