令和元年度は、当研究テーマに沿って以下の成果を達成することができた。一つ目は、原始ブラックホールの素である原始密度揺らぎの統計性と、原始ブラックホールの空間分布の関係性を明らかにしたことである。先行研究においては、原始ブラックホールが大スケールにおいてクラスター状に分布するのは、ある論文では原始密度揺らぎがガウス統計に従う場合であるという主張がなされたり、別の論文では原始密度ゆらぎの局所型3点相関関数が非ゼロであれば必要条件であるという主張がなされたりと、互いに矛盾する結果が報告されるような混沌とした状況であった。本研究では、これらの指摘は正しくなく、正確には局所型4点相関関数が原始ブラックホールのクラスター分布を決めることを明らかにした。原始ブラックホールのクラスター分布を決める量が何かについては、最近研究者コミュニティーの間でも論争が続いていたが、本研究の結果はこの論争に決着をつけたものだと言える。三つ目は、原始密度揺らぎから原始ブラックホールの質量関数を計算する新しい解析手法を提案したことである。これまで、Press-Schechter法とピーク法の2つの質量関数を計算する手法が知られているが、どちらの手法にも概念的なレベルで問題点が存在した。この問題点を克服する手法を提案したことがこの研究の主要な成果である。これにより、与えられた原始密度揺らぎから、質量関数を正しく計算する道具立てが整えられたことになり、重力波の観測から原始ブラックホールの観点で原始密度揺らぎを制限する方法がより強固となった。
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