赤方偏移21cm輝線観測を用いた宇宙論モデルの探査可能性、暗黒エネルギーや宇宙の曲率のハッブル定数観測への影響について主に研究を行った。 赤方偏移21cm輝線観測による宇宙論モデルの探査可能性については、まずアクシオン暗黒物質について、本研究で定式化したミニハローを源とする赤方偏移21cm輝線のパワースペクトルを用いた探査可能性を調べた。アクシオンを生み出すPeccei-Quinn相転移が起こる時期に応じて、暗黒物質の密度パワースペクトルに特徴的なピークが生じる事が知られていた。我々は、そのようなピークが赤方偏移21cm輝線パワースペクトルで探査可能であり、アクシオン暗黒物質シナリオにおいてこれまで探査できていない領域で制限を与えることを示した。また、暗黒物質の標準的なモデルであるWeakly interacting massive Particleについて、その対消滅が赤方偏移21cm輝線に与える影響についても研究を行った。先行研究では解析的にモデル化されていた暗黒物質の非一様性からのブースト効果について、詳細なN対シミュレーションを行い理論予言を改善するとともに、近年のEDGES観測のデータを用いて、制限を見積もった。 他方、暗黒エネルギーや宇宙の曲率については、近年問題となっているハッブル定数の間接測定と直接測定間の不一致に焦点をおいて研究を行った。我々は電子質量が時間変化する可能性に着目し、宇宙が正の曲率を持つ場合ハッブル定数測定間の不一致が解決することを示した。宇宙の曲率の役割を暗黒エネルギーで賄うことを検討し、暗黒エネルギーが宇宙膨張を直接変えてしまい、バリオン音響振動やIa型超新星など低赤方偏移での距離測定に影響を与えることから困難であることも示した。ハッブル定数測定が大きな影響を与えるニュートリノ質量への制限についても研究を行った。
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