研究実績の概要 |
超弦理論の理論的整合性は、我々が住む四次元時空に加えて、コンパクト化された余剰次元空間の存在を要請する。四次元時空の物理法則は、余剰次元空間の幾何構造に大きく依存する。その特徴的性質として、多様なスピン、質量をもつ場の存在を予言する。本研究の目的は、観測的宇宙論に基づき、コンパクト空間上の超弦理論が予言する痕跡の新たな探査方法を提案し、その探査可能性を具体的に検証することである。具体的には以下の二課題を遂行する: 課題1:アクシオン暗黒物質の共鳴不安定性が構造形成にもたらすインパクトの検証 暗黒物質の有力な候補の一つであるアクシオン場の新たな検出方法として、重力波を用いた方法を昨年度提案した(Soda&Urakawa, 17)。2018年には、この方法の可能性を具体的に検証するため、アクシオン場が放出する重力波をシミュレーションを用いて見積もり、その検出可能性を検証した(Kitajima, Soda, Urakawa 18)。また、重力波放出のキッカケとなる共鳴不安定性を解析し、どのような模型においてより大きな振幅の重力波生成が期待されるのか明らかにした(Fukunaga, Kitajima, Urakawa 19)。 課題2:銀河形状の観測を通じた高スピン粒子の痕跡の検証 宇宙初期の加速宇宙期であるインフレーション宇宙は、高エネルギー基礎物理の良い実験場である。高スピン粒子がインフレーションを起こすスカラー場(インフラトン)と相互作用していた 場合には、インフラトンの原始揺らぎのスペクトラムに高スピン粒子の痕跡として特徴的な角度依存性が現れる。この痕跡は、銀河形状の観測を通じて検出可能である。2018年度には、スピン2の重い粒子が銀河形状に与える影響を解析し、そのが検出可能性を具体的に調べた (Kogai, Matsubara, Nishizawa, Urakawa 18)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
課題1)初年度の目標としていた、アクシオン場が放出する重力波の具体的てな見積もりおよびその検出可能性の検出を終えることができた。結果、異なる質量をもつアクシオン場は、異なる周波数の重力波を放出するため、今後その実現が予測される重力波の多波長観測により、アクシオン場の質量スペクトルに迫ることができるのでは、と期待される。この成果は、一本の学術論文に発表(Kitajima, Soda, Urakawa 18)し、また一本が現在査読中(Fukunaga, Kitajima, Urakawa 19)である。 アクシオン場は、Chern-Simons結合を通じて多様なゲージ場と相互作用すると考えられている。現在は、同様の共鳴過程を通じた宇宙磁場の生成機構についても調べ、アクシオン場の振動による共鳴現象を通じた宇宙論的スケールの磁場の生成が可能であることがわかっている(Patel, Tashiro, Urakawa 19)。現在、この結果を論文にまとめる最終作業を行なっており、5または6月中に学術雑誌に投稿する予定である。
課題2)インフレーション宇宙において存在した可能性のある多様なスピンをもつ粒子の、銀河サーベイを用いた観測手法の確立を目指し、2018年度には、スピン2の重い粒子が銀河形状に与える影響を解析し、その検出可能性を具体的に調べた。結果、重い粒子の痕跡は、統計誤差の影響を受けにくい小スケールにおいて顕著となることがわかった。この成果は既に、学術雑誌に発表した。
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