加速宇宙の謎に関わる可能性のある微細構造定数恒常性の測定感度を大幅に改善すると期待されるのがトリウム229原子核の極低エネルギー(通称アイソマー準位と呼ばれる)である。ダークエネルギー等の加速宇宙を説明しうる未知の物理が存在すれば、基底準位とアイソマー準位間のエネルギー差を高精度に長期間測定することで、その時間変化を確認することができれば、ダークエネルギーに対してパラメータの制限をつけられると期待されている。 今年度の主な取り組みとしては、昨年度に成功させた核共鳴散乱による核異性体生成を用いて、複数回の真空紫外光探索実験を行なった。実験にはトリウム229をドープしたCaF2結晶を試料として用いている。結晶にX線ビームを照射し、そこからの発光を光電子増倍管で観測した。実験の結果、トリウムをドープしたCaF2結晶からは、通常のCaF2結晶よりも多くの蛍光が観測されたため、その蛍光の波長成分や時間応答、結晶の温度依存性などの詳細評価を行なった。余分な蛍光成分は信号観測にとって背景事象となるため、その削減に取り組んだ。具体的には光電子増倍管のマウント方法やCaF2結晶の移動機構・光学フィルタ配置の最適化・温度調整機構の導入など実験装置の改良、最適化を進めた。 本研究期間ではまだ真空紫外光の観測には至っていないが、実験感度を最適化するための各種基礎データを(特に背景事象の実データを様々な条件下で)取得することができた。
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