最終年度は、すばる望遠鏡で得られた実際の観測データと数値シミュレーションの詳細な比較を行った。前年度に開発したすばる望遠鏡の模擬観測データの作成方法を拡張し、宇宙の平均物質密度やゆらぎの振幅が異なる100の宇宙モデルでの模擬観測データを作成した。これらのシミュレーションデータと実際の観測データを比較することで、実際の宇宙における物質平均密度やゆらぎの振幅を推定することを試みた。観測データとの比較にあたっては、深層学習による雑音除去の方法を応用することで、シミュレーションデータとの比較を効率化した。深層学習ネットワークの最適化の困難のために、すばる望遠鏡が取得した観測データの約15%のみの解析にとどまったものの、深層学習による雑音除去は実際の銀河撮像データに十分適応可能であることを示すことができた。観測領域が21平方度と小さいものの、深層学習による雑音除去によって、観測起因の統計誤差を半減できることが確認された。観測データとシミュレーションの比較により示唆される宇宙モデルは、他の観測結果と無矛盾であることも確認した。本研究が開発した数値シミュレーションによる模擬観測パイプラインと深層学習による雑音除去の手法は、今後の観測データにも広く応用され、標準宇宙モデルの詳細な検証に役立てられるものと期待できる。
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