研究実績の概要 |
宇宙マイクロ波背景放射(CMB)Bモード偏光ゆらぎによるインフレーション宇宙の観測には、大角度(方位数l<100) の非等方性の観測が必要である。そのため、POLARBEAR実験、Simons Array実験では半波長板を用いた偏光変調技術を使用する。しかし、望遠鏡の非理想性等により、定常的な偏光信号が存在すると、検出器の応答性の変動により、大角度観測のノイズ源となってしまう。本研究の目的は、定常的な偏光信号の原因を特定すること、及び、その定常的な偏光信号を打ち消す装置を開発し、望遠鏡に搭載することである。 昨年度は京都大学の田島治准教授のグループと共同でワイヤーを用いた偏光光源を作成し、Simons Array実験の試運転中の望遠鏡を用いて試験観測を行った。本年度の11月にも同様の試験観測を行った。本年度は試験観測のデータを詳細に解析し、偏光信号の強度を測定した。望遠鏡には半波長板がまだ搭載されていないが、角度の違う偏光検出器のペアを利用することにより、偏光成分を分離した。偏光成分の強度は90, 150GHz共に鏡で作られる偏光をキャンセルするのに十分な振幅を持っていることが確認できた。 ただし、ワイヤーが作る偏光信号の強度は、未だ搭載されていない望遠鏡のバッフルなど、周辺環境に依存する。また、鏡が作る偏光の強度は半波長板が搭載されていないため測定できていない。したがって本研究の原理検証には至っていない。Simons Array実験が完成すれば、本研究で得られた知見を利用し、すぐに原理検証、本搭載ができるだろう。
|