公募研究
宇宙背景放射 (CMB) に含まれる偏光信号パターン「Bモード」を観測することは、インフレーション宇宙論を実験実証する有力手段である。Bモードは微弱であるため、多ピクセルの電波用超伝導検出器を用いて高統計分析する。その際に問題となるのは、電波を取り入れる窓からの放射熱(赤外線)の侵入である。CMB望遠鏡の高感度化は、赤外線を選択的に遮断する断熱フィルターの開発と切っても切れない関係にある。本研究では、まったく新しい冷却手法であるガス対流冷却式断熱フィルターの開発を行った。従来の大型の断熱フィルターは、熱伝導を用いた冷却方法が主流だが、熱伝導性が悪い物質を用いる場合は断熱フィルターを一様に維持するのは困難である。本研究の主眼は、このフィルターとしての材料と、冷却手法を切り分ける、という点にある。フィルターをヘリウムガスで充満させた容器に封入し、このガスの滞留によってフィルターを冷却する。こうすることで、フィルターの材質にかかわらずに高い冷却能力を持たせることが可能になる。本研究の大きな課題は、どのように真空中でヘリウムを保持するか、である。フィルターとしての特性上、電波の通り道を容器が遮るわけにはいかないので、風船のような構造で、薄いフィルムで封入する。初年度は、検証用の容器を作成して、一面のみミクトロンというフィルムを用いて、1気圧のヘリウムガスを真空下で保持することに成功した。当該年度はこれを発展させて、実際に使用可能なフィルターを製作した。向かい合わせにフィルムの窓を用意し、その内部のヘリウムを封入する。また、今回は容器の体積を少なくし、フィルムの膨らみや萎みを積極的に活用することで、ガス圧によるストレスを軽減する設計に変更した。断熱フィルターとしての性能を定量的に評価する、というところまでは至らなかったが、ガス冷却式フィルターの技術的な課題を克服することができた。
令和元年度が最終年度であるため、記入しない。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)
Journal of Cosmology and Astroparticle Physics
巻: 09 ページ: 012-00 ~ 012-13
10.1088/1475-7516/2020/09/012