研究領域 | 核-マントルの相互作用と共進化~統合的地球深部科学の創成~ |
研究課題/領域番号 |
18H04365
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
角野 浩史 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (90332593)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 希ガス / 核 / マントル / 分配 / ハロゲン |
研究実績の概要 |
本研究は、溶融鉄-ケイ酸塩メルトの反応実験により得られる試料について希ガス質量分析技術を駆使し、希ガスのコア-マントル分配を明らかにする。高圧高温実験試料のサイズは10~100 μm 程度になると予想されるため、希ガス同位体分析の超高感度化と低ブランク化を追求し、天然に可能な限り近い濃度で微小試料中に含まれる希ガスの分析を実現することを目指す。また中性子照射による核変換と希ガス質量分析を組み合わせ、放射壊変起源希ガスの親元素であるK、I、Uなども希ガス同位体分析のみで同時に定量することにより、これらのコア-マントル間の分配を同時に制約することを試みる。そして得られた結果と、既知のマントル起源の天然試料の希ガス同位体比をもとに、地球内部の始源的希ガスリザーバーの在処を明らかにすることを目標とする。 本年度はまず、数10μm~数mm程度の微小な高温高圧実験回収試料の希ガス分析を可能にするために、超高真空が達成可能なイオンポンプの導入などによる、既存の希ガス質量分析システムの低ブランク化を行った。また自身の研究室にレーザー加熱ダイヤモンドアンビルセル高温高圧実験装置を設置し、そこで取り扱う微小試料の観察のための高性能実体顕微鏡を導入した。 愛媛大学で実施したマルチアンビル高圧発生装置を用いた実験では、2000~2300 K、3~8 GPaの温度圧力条件で、共存する溶融鉄とケイ酸塩メルトに希ガスを分配させた試料が得られた。そのうちケイ酸塩相中の希ガスを、顕微レーザーアブレーション装置を用いて抽出し、上記の希ガス質量分析システムを用いた分析したところ、出発物質として用いた希ガスをドープしたケイ酸塩ガラスと同程度の濃度で希ガスが含まれていることが分かり、高温高圧実験の系に希ガスが問題なく導入されていることが確認できた。現在鉄相の希ガス分析による分配実験の決定を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
溶融鉄-ケイ酸塩メルト間の希ガスの分配係数の決定には到っていないが、マルチアンビル高圧発生装置を用いた分配実験は順調に進み、鉄相の分析を待つばかりとなっている。DACを用いた実験の系も構築が完了しているので、こちらも分配実験を近日中に行い、回収試料の希ガス分析を試みる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は引き続き、溶融鉄-ケイ酸塩メルト間に希ガスの分配係数を決定するための高温高圧実験と希ガス分析を進めつつ、いくつかの高温高圧実験の試料にはハロゲン(F、Cl、Br、I)も少量加える。年度のできるだけ早い時期にこの試料に中性子を照射し、試料中のハロゲンとMg、K、Ca、Ba、Uといった元素の同位体を、核反応により特定の希ガス同位体に変換する。これを希ガス質量分析計で検出することで、試料に本来含まれていた希ガスとともに、これらの元素を高感度かつ同時に定量する。中性子照射には京都大学複合原子力科学研究所のKUR研究炉を用いる。照射後の試料は放射能を持つため、その分析には東京大学大学院総合文化研究科の放射線管理区域内に設置した専用の希ガス質量分析システムを用いる。この装置で微小試料の希ガス分析を行うための小型の真空加熱炉を設計・製作する。これら一連の実験と分析により、上に記した元素についてコア-マントル分離に相当する条件下での溶融鉄-ケイ酸塩メルト間の分配係数を得る。 一連の研究で明らかにしたコア-マントル間の希ガスの分配挙動と、これまでに天然の岩石・鉱物試料について報告されている希ガス同位体比、計画研究のA04班による理論計算の結果、さらに応募者によるこれまでの研究の成果から推定される、沈み込むスラブ物質とともにコア-マントル境界に供給される希ガスの組成をもとに、地球深部における希ガスの存在状態(何の、どのような構造のサイトに、どのように存在しうるのか)と始源的希ガスリザーバーの在りかを明らかにし、コアとマントル、さらに表層の大気や海洋まで含めた全地球の希ガス共進化モデルを構築する。
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