研究実績の概要 |
下部マントルは主に、ブリッジマナイト(Brg)とフェロペリクレース(Fp)から構成されている。BrgはFpに比べ、2桁以上粘性率が大きいと考えられている。下部マントル中では、歪量が少ないときはBrgがフレームワークをつくり、粘性率を律速している一方で、歪量が大きくなるにつれ、選択的に変形するFpが層構造を形成することで、次第にFpが粘性率を律速することが予測されている。そのため、下部マントルの粘性率構造の多様性の原因の一つは下部マントルの粘性率を支配している鉱物の違いが可能性としてあげられる。本研究では、下部マントルの粘性率を実験的に明らかにするために、BrgとFpの量比とその微細構造(歪量)を変数とした下部マントルの粘性率を決定することを目的とする。本研究結果を基に、地球物理学的観測で示された下部マントルの粘性率構造の原因について考察を行うことを目的とする。 2019年度では、主に高エネルギー加速器研究機構KEK, PF-AR, NE7Aに導入されたD111型ガイドブロックを使用した。本研究ではまず、Brgがフレイムワークを作っているときにBrgが示す応力を明らかにするため、Brg単相での一軸圧縮変形実験の応力―歪量同時測定を行い、Brgの流動則(応力指数・活性化エネルギー)を1200℃-1400℃の間で決定した。次に、カンラン石組成を全岩組成(Mg:Si比が1:1)を持つBrgとFpの多結晶体のせん断変形実験の応力―歪同時測定を1400℃で行った。Girard et al. (2016)では歪量が~0.3からBrgの応力の減少が報告されているのに対し、本研究ではせん断歪量が1.2を超えてもBrgの応力の減少が観察されず、Brgがフレーム枠を作り全体の応力を支えていることが明らかとなった。このことから、Fpが全体の粘性を支配するようになるためには少なくとも1.2以上のせん断歪量が必要となることが明らかとなった。
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