近年の地震波観測の進展により、現在の地球内部の動的構造(ダイナミクス)が次々と明らかになってきている中で,それら観測事実の物理的背景の理解が求められている。特に表層から地球深部へと沈み込んだプレート(スラブ)の動的な挙動は、地球史を通して地球内部全体の物質循環とその進化に決定的な影響を及ぼす1つの要因である。しかし、これまで下部マントルより深い領域に対応した超高圧力下(>~30GPa)における変形実験はその技術的困難から、定量的な実験がほとんど行われてこなかった。そこで本研究では下部マントルに沈み込んだスラブの振る舞いを明らかにすることを目的とし、新しく開発された回転式ダイヤモンドアンビルセル (回転式DAC)を用いることで、下部マントルの主要構成鉱物であるブリッジマナイトとフェロペリクレース(2相系)の高圧(~40-120GPa)かつ大歪み変形実験を行なった。これによって、歪みに対する微細組織の発達(FIBによる加工とFE-SEMによる観察)とその応力ー歪み曲線(SPring-8におけるXRDパターンの取得)を獲得するまでに至った。まず微細組織の発達についてわかったことは、フェロペリクレースが歪みに応じて大変形を起こし、最終的に連結する構造(Interconnected Weak Layer)を作ること。そして応力データからは、その微細組織の発達に伴い、ブリッジマナイトの流動応力が減少し、フェロペリクレースの流動応力に近づくことが示された。これは下部マントルに沈み込んだスラブが変形に伴い、著しくその強度を弱化させることを示している。この下部マントル物質の微細構造の発達と流動応力の弱化は、下部マントルの地震波観測で確認されているスラブのthickening(肥厚)に寄与しているのではないかと考えられる。
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