研究領域 | 反応集積化が導く中分子戦略:高次生物機能分子の創製 |
研究課題/領域番号 |
18H04380
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
林 雄二郎 東北大学, 理学研究科, 教授 (00198863)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 固体化触媒 / 有機触媒 / 不斉触媒 |
研究実績の概要 |
有機触媒は、一般に安価であり、生成物に金属が残留しない、厳密な無水条件、酸素の除去が必要無く、実験操作上の利点も有する。我々はdiphenylprolinol silyl etherという優れた有機触媒を開発している。触媒を固定化すれば、触媒の回収・再利用は容易になり、その有用性は大いに高まる。そこで、本研究ではこの有機触媒の固定化を目指して研究を行う。この触媒の問題の一つは、酸に不安定なシリルエーテル部位を有することである。使用するにつれ、シリルエーテル部位の脱保護が進行し、アルコールとなり活性が低下することが知られている。そこで、まず、シリルエーテルを安定なアルキルエーテルに置き換える。3級アルコールのエーテル結合生成なので、立体障害のため、合成できるエーテルが限られるが、いくつかのエーテルを合成することに成功した。その後、合成したエーテルの触媒機能をアルデヒドとニトロアルケンとの不斉マイケル反応で調べた。その結果、ベンジルエーテルでは不斉収率が低かったが、アントラセンを有する部位を導入したときに、良好な不斉収率で生成物が得られた。これによりアントラセンを含むエーテル結合をシリルエーテル結合に置き換えることにした。次の課題は、高分子への固定化である。これに関しては4―ヒドロキシプロリンを利用し、その4位のヒドロキシ基を用いて高分子への担持を試みた。ヒドロキシ基の先にリンカーを入れ、さらにスチレンユニットを導入した。4―ヒドロキシプロリンのカルボン酸部位を利用して、diphenyl部位とアントラセンを含むエーテル結合部位を導入した。その後、原口直樹先生(豊橋技術科学大学)との共同研究により、スチレンとの重合反応を行い、ポリスチレン型diphenylprolinol etherの合成に成功した。今後はその触媒活性、不斉触媒能、再利用性に関して検討を行って行く予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
diphenylprolinol silyl etherという我々が開発した触媒を固定化するに際して、2つの問題が予見されていた。それは、酸に弱いシリルエーテルを何で置き換えるかということと、どのようにして固体に担持するかということである。最初の問題は、検討の結果、アントラセンを含むエーテル結合で置き換えることができることがわかり、後者の問題に関しては4―ヒドロキシプロリンの水酸基を利用し、ポリスチレンに担持させることができた。当初の予期していた問題点は解決でき、概ね計画通りに研究が進展していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
本年度、diphenylprolinol アルキルエーテルをポリスチレンに固定化したが、このポリスチレンに担持した固定化有機触媒の触媒活性、不斉触媒能、再利用性に関して、プロパナールとニトロスチレンの不斉マイケル反応をモデル反応として検討を行う。その結果を受け、問題がある場合は、固定化することにより反応性に問題があるのか、不斉識別能に問題があるのか、あるいは触媒の再利用性に問題があるのか、等のどこに問題があるのかを明らかにし、その理由を解明する。得られた知見に基づき、より良い固定化触媒の開発に繋げる。具体的にはモノマーの触媒は高い反応性、立体選択性を有していることを確認しているので、問題があれば、担持する固体の問題が大きいと考える。担持する固体により、触媒活性が変化することは知られているので、担持固体に問題がある場合には、ポリスチレンに変わるポリマーを検討することにより、最適な担持固体を見出す。その後、固定化触媒の再利用性に関して検討し、優れた触媒活性と立体選択性を兼ね備えた触媒を開発する。その後、色々な反応に適用し、固体化触媒の一般性に関して、系統だった検討を行う。
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