研究領域 | 反応集積化が導く中分子戦略:高次生物機能分子の創製 |
研究課題/領域番号 |
18H04384
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
長友 優典 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 講師 (70634161)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 全合成 / 高酸化度核酸系天然物 / 中分子 / タキソール / ラジカル反応 / テルリド / 有機合成 |
研究実績の概要 |
【背景】分子量400-4000の中分子天然物が低分子・バイオ医薬の優位点を併せ持つポストバイオ医薬として注目を集めているが、それらを医薬品開発のリード化合物として活用する事は、その化学構造の複雑さから極めて困難な課題である。この社会的要請の高い問題の解決に向け、本研究では、反応集積型高化学選択的ラジカル反応を鍵とした官能基密集型中分子テルペノイドの実用的全合成戦略の確立を計画した。具体的には、顕著な生物活性を有する官能基密集型中分子テルペンであるタキサン類およびクラジエリン類を、高化学選択的な分子間ラジカルフラグメントカップリングおよびラジカル環形成反応を用いて超効率的に全合成する。全合成を基盤とした本研究は、天然物化学・創薬化学・有機合成化学の複合領域において、大きな学術的波及効果を生むと共に、本新学術領域研究の特長である、高次機能中分子の創製を切り開く重要な基礎研究となる。 【方法・結果】本年度は分子間ラジカル付加反応を鍵とする、抗がん剤タキソールの収束的全合成研究を遂行した。アシルテルリドおよびエノンを用いたラジカル付加反応により立体選択的にA, C環を連結した。続いて、パラジウム触媒を用いた分子内アルケニル化反応によるB環構築を行うことで、タキサン骨格を有する化合物を市販化合物から23工程で効率的に合成した。本生成物はタキソールを合成するための足掛かりとなる官能基を十分に備えている。 本成果は米国化学会誌Organic Lettersに発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度は、当研究課題を大きく展開させ、5報の学術論文を出版することができた。また、これらの研究成果は国内外から高い注目と評価を得ており、多くの招待講演を行うに至った。さらに、論文発表した成果以外にも、総合的に準備を終わらせている。申請書記載のすべてにおいて、課題を順調に進展させており、平成31年度以降の展開に向けて基盤を形成したから。
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今後の研究の推進方策 |
令和元年度の研究計画; 前年度までに確立した化学選択的ラジカルカップリングを駆使し、1-ヒドロキシタキシニンおよびレジニフェラトキシンの全合成を達成する。 具体的には求核的なα-アルコキシ炭素ラジカル種と求電子的なα-シアノエノンのラジカルカップリングにより中分子リード化合物の創製を視野に入れた、実用性の高い1-ヒドロキシタキシニンの合成経路を確立する。高度に極性官能基化されたタキサン骨格(6/8/6員環)は、極めて合成困難である。さらに、多くの極性官能基が存在する場合、利用可能な反応は大きく限定され、合成経路の設計は著しく困難になる。我々は、Et3B/O2システムによる官能基選択的ラジカル発生と求核的なα-アルコキシ炭素ラジカル種と求電子的なα-シアノエノンのラジカルカップリングによるフラグメント連結、およびMcMurryカップリング反応を用いてタキサン骨格を合成する、全く新しい収束的合成経路を設計した。 平成31年度は、市販原料からのA環フラグメントおよびC環フラグメントの短工程合成経路を確立したのち、ラジカル反応を基盤とする鍵反応を用いて1-ヒドロキシタキシニン全合成を26工程程度で達成する。さらにその知見を最大限活用し、より高酸化度な抗がん剤タキソールの全合成に着手する。 また、分子内7-endoラジカル環化反応を鍵とするレジニフェラトキシンの超短工程合成も実現する。
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