研究領域 | 反応集積化が導く中分子戦略:高次生物機能分子の創製 |
研究課題/領域番号 |
18H04394
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
大神田 淳子 信州大学, 学術研究院農学系, 教授 (50233052)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | たんぱく質間相互作用 / 細胞内阻害剤合成 / フシコクシン / 14-3-3 / 合理設計 / 細胞増殖阻害活性 |
研究実績の概要 |
たんぱく質間相互作用(PPIs)を対象とした中分子創薬の課題として細胞移行性の低さや合成手段の煩雑さが挙げられる。本研究では、生物直交性反応による細胞内中分子合成を指向し、天然物フシコクシン(FC)とペプチドフラグメントの合理設計と合成および無触媒Huisgen環化付加反応(クリック反応)によるFC-ペプチド融合体合成における14-3-3の鋳型効果を検討した。 クリック反応における反応性低分子としてFC-Jの12位水酸基をo-ベンジルアジドで置換したアジドFCおよび14-3-3結合ペプチドのC末端に含窒素環状歪アルキンDACNを縮合したペプチド誘導体を設計合成した。アジドFCとDACNペプチドをDMSO中37 °C で撹拌しHPLCにて反応を追跡したところ、生成物はほとんど検出されなかったが、80 °Cに加熱すると反応は加速し、対応するクリック反応環化付加体を1:1の位置異性体混合物として与えた。次に緩衝液中14-3-3の効果を検討したところ、興味深いことに37 °C下でも反応は進行し、一方の異性体を生成比18:1で優先的に与えることが明らかとなった。さらに、化合物の細胞毒性をヒト大腸がん細胞HCT116を用いたWSTアッセイにより評価したところ、DACNペプチド、および化学的に調製した環化付加体はいずれも細胞毒性を示さなかったが、アジドFCとDACNペプチドの等量混合物を添加した際は明らかな細胞毒性を示した。この結果はFC、ペプチド両誘導体が細胞膜を透過して環化付加体を与え、細胞増殖を抑制したことを示唆している。以上のように、クリック反応によるFC-ペプチド融合体合成が細胞内14-3-3相互作用の制御に有用である可能性を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
天然物の構造改変およびペプチド固相合成による反応フラグメントの合成を完了し、これらが14-3-3の存在下で無触媒クリック反応による複合体を与えること、その際一方の異性体を有意に与えることから、14-3-3の鋳型効果を立証できた。また細胞実験により細胞内で生成したと考えられる複合体が有意な細胞増殖阻害活性を示すことを明らかにできた。天然物を用いたクリック反応が生体内薬剤合成とPPI制御に有用であると期待される。
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今後の研究の推進方策 |
クリック反応の問題点として反応速度が遅いことを踏まえ、反応速度の向上が期待される逆電子要求型Diels-Alder反応を用いることで問題の解決を図る。また天然変性たんぱく質を対象とする合成阻害剤開発の一環として、中分子構成要素として用いられている含窒素複素環化合物群を用いたin vitroスクリーニングを実施し、中分子合成化合物を基盤とするPPI医薬品開発の展開を試みる。
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備考 |
天然物フシコクシン誘導体の生理活性に関する論文がAAASの紹介記事に取り上げられた。
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