研究領域 | 反応集積化が導く中分子戦略:高次生物機能分子の創製 |
研究課題/領域番号 |
18H04400
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
西川 俊夫 名古屋大学, 生命農学研究科, 教授 (90208158)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | アプリシアトキシン / オシラトキシン / プロテインキナーゼC / 有機合成 / アイソザイム / 網羅合成 / 海産天然物 / 全合成 |
研究実績の概要 |
アプリシアトキシン(ATX)、オシラトキシン(OTX)類は、海洋シアノバクテリアから単離された中分子量のポリケチド系天然物である。アプリシアトキシンは、プロテインキナーゼC(PKC)の活性化によって、強力な発ガン促進や炎症作用を示すことが明らかにされているが、オシラトキシン-Dは、L1210細胞に対する細胞毒性があると報告されているがその詳細はまったく明らかでない。本研究では、これらATX/OTX群を統一的に網羅合成することを目的としている。 本年度は、合成計画に従ってATX/OTX類に共通の骨格を有する鍵中間体(フェノール性水酸基をTIPSで保護したもの)を、左右のセグメントをカップリングすることで合成した。これを使って、Ferrier転位を介した分子内向山アルドール反応によってスピロエーテル骨格を構築し、まずオシラトキシン-Dとその30-メチル体の全合成に成功した。ついで最近発見された天然類縁体であるオシラトキシン-EとFの世界初の全合成にも成功した。これらの合成は、鍵中間体からわずか数工程という効率の良いものである。 また、これら合成品を使った細胞毒性試験を実施し、はじめてそのL1210細胞に対する活性の詳細を明らかにした。さらに、PKCへの親和性を調べたろころ、この細胞毒性はPKCの活性化によるものではないことも明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、まずATX/OTX類に共通の骨格を有する鍵中間体を、左右のセグメントをカップリングすることで合成した。次に,Ferrier転位を介した分子内向山アルドール反応によってスピロエーテル骨格を有するオシラトキシン-Eへと変換し、続くエステル交換反応によってラクトン環を導入することでオシラトキシン-Dと30-メチル-オシラトキシン-Dを合成した。さらに本反応の検討過程で,オシラトキシン-Dを弱塩基性条件に付すとラクトン部分の脱離と脱炭酸を伴ってオシラトキシン-Fへと変換されることが判明した。従って,鍵中間体から5段階で4種の類縁体を全合成することに成功した。 一方、鍵中間体からアプリシアトキシンへの合成についても検討をすすめた。鍵中間体からブロモ環化反応によってスピロアセタールを形成、ケトンの立体選択的還元によってアプリシアトキシンのセコ酸部分の合成に成功した。しかし、スピロアセタールの不斉中心をアプリシアトキシンの立体配置に異性化することはできていない。
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今後の研究の推進方策 |
アプリシアトキシン(ATX)の合成は、最後にマクロラクトン化(分子内エステル化)をする方針から、内部アルキンを含むマクロリドを合成してから、スピロアセタールを形成する方法へと方針変換する。まず、鍵中間体の合成前駆体(アルキンを含む中間体)を使ってマクロジオリドを形成し、金属触媒を用いたアセチレンとジオールの渡環的なスピロアセタール形成反応を試みる。 さらに、ごく最近発見されたATX/OTXの新規類縁体の全合成にも挑戦する。すべて、鍵中間体を使って合成する計画である。ネオデブロモアプリシアトキシンBは、オシラトキシンFのハロラクトン化によって合成し、そのラクトンを加水分解し、ヒドロキシカルボン酸と縮合することで、ネオデブロモアプリシアトキシンAを合成する。
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