研究実績の概要 |
高脂血症治療薬であるEzetimibeの全合成を指向したアルキニルイミンとケテンシリルアセタールとの共役付加反応において、平成30年度は基質をジアルキニルイミンからアルケニルアルキニルイミンに変更することによって、アルケニルイミノシクロブテノンを合成できることを見出した。 α-アミノ酸およびその誘導体は天然物や医薬品などによく見られる構造であるため、窒素原子上に異なる置換基を有するアミノ酸誘導体を効率的に合成する手法の開発は非常に重要である。当研究室では既にα-アシロキシイミノエステルに対し、Grignard反応剤を用いることで、窒素原子上に異なる置換基を導入できることを見出し、更に連続してC-アルキル化反応を進行させることで、全て異なる置換形式のN,N,C-トリアルキル化体が得られることも明らかにしている。平成30年度は、Comet X-01を用いα-スルホキシイミノエステルのN,N,C-トリアルキル化反応を行った。その結果、安息香酸の入ったα-スルホキシイミノエステルに対し、EtMgBr、nPrMgBr、BnMgBrを-40 ℃というバッチ条件よりも温和な反応条件で作用させることで、目的のN,N,C-トリアルキル化体が得られることを見出した。 α-カルボリン骨格はアルカロイド中で発見され、抗ガン作用、抗炎症作用などの生理活性を有するため注目されており、その合成法の開発が必要とされている。平成30年度は、含窒素中分子の高効率合成のための有用な中間体合成として、基質にカップリングの手がかりを有する求核剤を用い合成した 2-アミノピリジンの分子内アミノ化反応によるα-カルボリンの合成を検討した結果、3-(2-クロロフェニル)-2-アミノピリジンのパラジウム触媒を用いた分子内アミノ化反応によってα-カルボリンが得られることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高脂血症治療薬Ezetimibeの全合成において、ジアルキニルイミンでは重要な鍵中間体であるアルケニルイミノシクロブテノンを合成できなかったが、基質をアルケニルアルキニルイミンに変更することによって、その合成に成功した。 また、Comet X-01を用いα-スルホキシイミノエステルのN,N,C-トリアルキル化反応を行った結果、安息香酸の入ったα-スルホキシイミノエステルに対し、EtMgBr、nPrMgBr、BnMgBrを-40 ℃というバッチ条件よりも温和な反応条件で作用させることで、目的のN,N,C-トリアルキル化体が得られることを見出した。 さらに、含窒素中分子の高効率合成のための有用な中間体合成として、基質にカップリングの手がかりを有する求核剤を用い合成した 2-アミノピリジンの分子内アミノ化反応によるα-カルボリン合成法を開発した。 このように目標とした含窒素中分子の高効率合成のための連続反応プロセスに、三重結合を有するアルケニルアルキニルイミンおよびα-イミノエステルが有用な出発物質であることをそれぞれ明らかにすることに成功し、令和元年度は多段階フロー合成へ挑戦できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は平成30年度に得られた知見をもとに多段階フロー合成へ展開する。具体的には以下の計画による。 (1)Comet X-01を用いα-スルホキシイミノエステルのN,N,C-トリアルキル化反応の基質適用範囲の拡大を検討し、様々な置換基を有する四級炭素を有するα-アミノエステルの合成を検討する。また、α-アシロキシイミノエステルのN,N,C-トリアルキル化反応も検討する。(2)ジアルキニルイミンへの1,4-1,6-二重求核付加反応の開発:ジアルキニルイミンを出発物質に用い、最初の共役付加反応により生じたアルキニル基を有するシクロブテノンへ、もう一分子の求核剤(Nu1)を連続的に作用させることによる、マイクロミキサーを用いたイミノシクロブテノンの合成を検討する。(3)ジアルキニルイミンへの1,4-1,6-1,2-三重求核付加反応の開発:(2)で得られた実験結果を踏まえ、さらにマイクロミキサーを連結させた後、二番目の求核剤(Nu2)を連続的に作用させることによる1,4-1,6-1,2-三重求核付加体のアミノシクロブテノンの合成を検討する。(4)高脂血症治療薬Ezetimibeの全合成:本フローシステムの全合成への応用として、キラルなβ-ラクタム合成法を鍵反応に用いる高脂血症治療薬Ezetimibeの効率的な全合成を検討する。(5)固相触媒を用いる多段階連続フローシステムによる光学活性β-ラクタムの合成:不均一系触媒の高分子固定化キラルリン酸およびアミン触媒をカラムに充填しイミノシクロブテノンを流通させることによるキラルなcis-およびtrans-β-ラクタムの合成のための連続フローシステムを検討する。 計画をさらに推進するために、各研究テーマに参加する大学院生の人数をさらに1名ずつ増員し、令和元年度で研究計画を達成する。
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