研究領域 | 反応集積化が導く中分子戦略:高次生物機能分子の創製 |
研究課題/領域番号 |
18H04404
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
三木 康嗣 京都大学, 工学研究科, 准教授 (60422979)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | シアニン / 近赤外 / 光音響 |
研究実績の概要 |
光音響腫瘍造影剤として有効であると考えられるナフタロシアニン、フタロシアニン類を合成した。中心金属元素として、軸配位子を持つアルミニウム、ガリウム、インジウム、ケイ素を選択した。ガリウムフタロシアニンは軸配位子として水酸基とクロロ基が混在し、正確な物性調査に不向きであった。インジウムフタロシアニンは軸配位子としてハロゲン元素以外を導入しにくいことがわかった。アルミニウムフタロシアニンを水中で分散させ、紫外-可視吸収スペクトルを測定したところ、H会合体とJ会合体に相当する吸収帯が観測された。シリコンフタロシアニンではJ会合体に由来するシグナルが主に観測された。これらのサンプルに近赤外パルスレーザー光を照射し、発生する光音響信号の強度を測定したところ、アルミニウムフタロシアニンの方が強い信号を発することがわかった。このことは、H会合様式で集合体を形成するアルミニウムフタロシアニンの方が光音響造影剤として適していることを示す。なお、アルミニウムフタロシアニンの軸配位子にポリエチレングリコールを結合させたところ、水に溶解し、またH会合体形成も確認された。ポリエチレングリコールの長さや末端への腫瘍ターゲティング分子の結合など、腫瘍集積性を高める工夫を行い、造影剤としての利用を目指すことが2019年度の課題となる。 上記の手法を応用し、より長波長領域で光吸収が可能なアルミニウムナフタロシアニンの合成を行った。フタロシアニンと同様に光音響信号を発することを確認している。2019年度はフタロシアニンと比較し、より有効な造影剤として機能するかどうかを確認することが課題といえる。 なお、これら成果は2019年3月に開催された日本化学会春季年会において発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度の実施計画で挙げたアルミニウムフタロシアニン、ナフタロシアニンの合成と光音響信号強度の測定、評価を行い、その有用性を明らかにした。この点は本課題が順調に進捗していることを示す。また、水溶性官能基の導入も初期の結果であるが、問題なく行えることを示せており、順調な進捗といえる。ただ、腫瘍ターゲティング分子の導入を目標としていたが、この点は行えておらず、2019年度に行うこととしており、やや遅れているといえる。しかし、シリコンフタロシアニンやガリウム、インジウムフタロシアニンとの比較において、光音響信号強度の由来に関わる重要な知見を得たことは、本課題のみならず他の研究の推進に影響を与える成果といえ、計画以上の成果といえる。これらを鑑み、本課題は順調に進行しているものと考えた。
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今後の研究の推進方策 |
本課題は順調に進行しており、当初予定通り、研究を推進することで、目標とする光音響腫瘍造影剤の開発につながると考えている。具体的には、アルミニウムフタロシアニン、ナフタロシアニンの軸配位子に、水溶性官能基の導入(初期実験結果から問題ないことは確認済み)、続き、腫瘍ターゲティング分子(環状RGDペプチドを想定、固相合成によりすでに合成済み)を導入する。得られる光音響腫瘍造影剤の細胞表面の表面インテグリン(環状RGDペプチドと特異的に結合するサイト)認識能を評価する。担がんマウスに投与し、腫瘍集積性を明らかにする。 これらとは別にアルミニウムフタロシアニンとナフタロシアニン、水溶性官能基の間に腫瘍で過剰発現する酵素により切断されるペプチド鎖を導入し、腫瘍の識別能を付与する工夫も試みる予定である。 これらを通し、強い光音響信号を発し、高い腫瘍集積性を示す光音響腫瘍造影剤を開発する。
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