研究領域 | 反応集積化が導く中分子戦略:高次生物機能分子の創製 |
研究課題/領域番号 |
18H04407
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
塚野 千尋 京都大学, 薬学研究科, 講師 (70524255)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 合成化学 / 有機化学 / 生理活性 |
研究実績の概要 |
近年、結核、マラリアなどの再興感染症が社会問題となっており、将来治療が困難な多剤耐性菌が増加することが予測されている。そのため、新たな作用機序をもつ薬物開発が切望されている。本研究では、近年新薬が上市されていない結核に対して、新規作用機序を有する中分子有機化合物の薬剤としての可能性を検討するため、脂肪酸側鎖を持つリポヌクレオシド系天然物を取りあげている。リポヌクレオシド系天然物はウリジンとβ-ヒドロキシアミノ酸、脂肪酸側鎖を合わせ持つ複雑な構造を有するため,合成標的としても挑戦的な天然物である。本研究ではリポヌクレオシド系天然物の効率的合成法を確立することを目的としており、新規合成法を確立することで構造活性相関研究へ発展することを目指している。 研究代表者はこれまでリポヌクレオシド系天然物であるカプラザマイシン類やCPZEN-45の合成研究に取り組んできた。本合成ではウリジン由来のアルデヒドとイソシアナートまたはフェニルカーバメートの連結を鍵としてウリジン部位を有するβ-ヒドロキシアミノ酸誘導体を調製している。本年度は本反応の立体選択性の要因を計算化学を駆使することで明らかにした。さらに、その知見を生かすことでシリル基に加えて、環状および非環状アセタール系の保護基を用いた合成経路も確立した。今後の誘導化には、様々な反応条件が想定されるため、自在に保護基を選択できることは重要である。さらに本合成知見を生かし、スファエリミシンAの右側フラグメントの大量合成法を確立した。現在、スファエリミシンAに含まれるピペリジン環の形成法について検討中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度はカプラザマイシン類やCPZEN-45の合成知見を生かし、スファエリミシンAの右側フラグメントの大量合成法について検討した。そして、シリル基に加えて、環状および非環状アセタール系の保護基を用いた合成経路を確立した。本合成法では、チオウレア触媒とアルデヒド、イソシアナートまたはフェニルカーバメートを用いる。計算化学を駆使することで、これら原料と反応剤間の水素結合に加えて立体的要因が、その立体選択性の制御に重要であることを明らかにした。これら結果と本選択性の要因の解明、および、リポヌクレオシド系天然物の共通構造合成法の開発をまとめて、国際学術誌に投稿した。 また、スファエリミシンAに含まれるピペリジン環の形成法について検討した。銅触媒を用いたヨウ化ビニルの分子内アミド化による7員環ジアゼピノン環の形成では分子内の窒素の配位が重要であった。今回、モデル化合物と種々の銅触媒、リガンドを用いて分子間反応を試みたが、目的のカップリング体は得られておらず、現在検討中である。また、パラジウムやビスマスを触媒とした環化反応についても検討し、ピペリジン環形成にも応用可能な含窒素複素環構築にも成功した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は確立した右側フラグメントの大量合成法で得た中間体から、左側フラグメント中に含まれるピペリジン環の構築をさらに検討する。これまでの銅触媒を用いた方法に加えて、パラジウム触媒あるいはビスマス触媒反応や古典的な炭素―窒素結合形成反応を利用することも視野に入れて、モデル化合物を用いた検討を実施する。現在、スファエリミシンAのピペリジン環上の立体化学は明らかとなっていない。ピペリジン環の構築法を確立したら、まず合成中間体と天然物のスペクトルデータ(NMR)を比較し、絶対立体配置を推定する。 スファエリミシンAやリポシドマイシン類などのリポヌクレオシド系天然物では、糖の水酸基の一つがスルホン化されている。全合成に向けて、合成の最終段階での糖ユニットへのスルホン酸の導入を検討する。高い位置選択性を実現するために、有機触媒を用いて水素結合と有機触媒のかさ高さで反応を制御することを試みる。まず、モデル化合物を用いてスルホン化の位置選択性の制御法を確立した後、実際の全合成に用いる基質に適用する。以上の方法によりリポヌクレオシド系天然物の効率的合成法の確率を目指す。
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