研究領域 | 反応集積化が導く中分子戦略:高次生物機能分子の創製 |
研究課題/領域番号 |
18H04409
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
依光 英樹 京都大学, 理学研究科, 教授 (00372566)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | シグマトロピー転位 / Pummerer型反応 / ヘリセン / ビアリール |
研究実績の概要 |
以下の二つの成果を得た。 1)シグマトロピー脱芳香族化/脱フッ素化を利用するフルオロベンゾフラン合成 我々は以前、拡張プメラー反応を利用することで、活性アルケニルスルホキシドであるケテンジチオアセタールモノオキシドとフェノールからベンゾフランが得られることを報告した。今年度我々は、原料としてポリフルオロフェノールを用いることで、フッ素を脱離させながらフルオロベンゾフランを得ることに成功した。本反応の鍵は、シグマトロピー脱芳香族化と続く還元的な脱フッ素化過程である。すなわち、interrupted Pummerer反応と[3,3]シグマトロピー転位により脱芳香族化されたシクロヘキサジエノン中間体をまず発生させる。続いて還元剤として亜鉛粉末を作用させることで芳香族性の回復を駆動力としてフッ化物イオンの脱離が進行する。最後に、酸によって環化させることで目的のフルオロベンゾフランが得られる。生成物中の2位のメチルスルファニル基は、パラジム触媒によるカップリング反応などでさらに変換できる。 2)シグマトロピー転位によるビアリール骨格構築を鍵とするヘテロヘリセン合成 芳香環がらせん状に縮環した分子であるヘリセンは、魅力的なキラル光学特性を示す機能性有機分子として注目を集めている。今回我々は、1,8-ナフタレンビススルホキシドと2-ナフトールからPummerer型反応により容易に合成できるターナフタレンを共通中間体とするジヘテロ[8]ヘリセンの合成を確立した。すなわち、スルファニル基を脱離基とする環化反応によってジオキサヘリセンを、ヒドロキシ基を脱離基とする環化反応によってジチアヘリセンを合成することに成功した。また、ジチアヘリセンをビススルホンへ酸化したのち、アニリンを用いた芳香族求核置換反応によってジアザヘリセンへの変換を達成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画ではフロー系を用いたビアリール合成を計画していた。しかしながら、より一般性の高いフロー系を利用しない条件において、酸無水物を活性化剤とするアニリンとアリールスルホキシドのプメラー型ビアリール合成を達成しつつある。特に、アニリン窒素上の電子求引基が重要であることを見つけており、今後の検討の最大の山場を乗り越えた。 一方で、先述の「シグマトロピー脱芳香族化/脱フッ素化を利用するフルオロベンゾフラン合成」を偶然見つけており、研究は予想外の方向にも進んでいる。また「シグマトロピー転位によるビアリール骨格構築を鍵とするヘテロヘリセン合成」に関しては、31年度の研究計画の先取りとなっている。 全体として、研究はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
フロー系でしか達成できないアニリンとアリールスルホキシドのプメラー型ビアリール合成をみつけだし、その優位性を明らかにする。さらに、当初予定していた「軸不斉配位子の高効率簡便合成」に取り組む。 2,2’-二置換ビナフチル骨格は有機触媒や配位子の重要な母骨格である。本申請の手法では、2,2’位に非対称にヘテロ原子置換基を持つビアリール分子群を簡便に合成できる。合成が難しいとされてきた有用軸不斉ビナフチル化合物群を網羅的に合成し、その触媒前駆体としての有用性を検討する。様々な置換パターンのビナフチル化合物を合成できる潜在能力を有するが、本申請の期間中には、その有用性がすでに担保されている (1) エナンチオ選択的クロスカップリングに資するビナフチルスルフィドホスフィン配位子 (2) エナンチオ選択的アリル位C-H酸化反応に資するビナフチルビススルホキシド配位子のライブラリ構築を行い、本申請の合成手法の有用性を明確にする。
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