研究領域 | 反応集積化が導く中分子戦略:高次生物機能分子の創製 |
研究課題/領域番号 |
18H04410
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岩崎 孝紀 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (50550125)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | クロスカップリング反応 / 中分子 / シクロプロパン |
研究実績の概要 |
本研究では、アルキル基同士のクロスカップリング反応を利活用することにより、飽和炭素骨格を有する生理活性分子の合成手法の開発を目指して研究に取り組んだ。 シクロプロパン環は、炭素ー炭素二重結合の生物等価体として知られる官能基である。天然にもシクロプロパン環を有する化合物が多く知られており、合成分子でも二重結合のミミックとして用いられる。そこで、シクロプロパンの導入と炭素骨格の伸長を同時に達成する合成戦略としてシクロプロパン含有ビルディングブロックを新たに設計・合成した。これに対して、アルキルグリニャール試薬並びにブロモアルカン酸とのニッケル触媒によるクロスカップリング反応を逐次的に施すことにより、様々な炭素鎖長のシクロプロパン含有脂肪酸を合成した。また、アルキルグリニャール試薬並びにブロモアルカン酸の鎖長の組み合わせにより、シクロプロパン環の導入位置も自在に制御可能であった。 次に、このビルディングブロックを用いて、ミコール酸の合成を試みた。ミコール酸は、結核菌が産生する超長鎖脂肪酸類であり、シクロプロパン環を複数有する。検討の結果、今回開発したシクロプロパン含有ビルディングブロックを利活用することにより、ミコール酸の形式全合成を達成した。また、官能基化された基質同士のカップリング反応ではニッケル触媒系が有効である一方で、より長鎖の基質では、溶解性が効率的なカップリング反応を妨げることが明らかとなった。この問題は、銅触媒系を用いることにより解決できることも明らかとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
シクロプロパン含有ビルディングブロックを新たに開発し、これがシクロプロパン含有脂肪酸およびミコール酸の合成に有効であることを明らかにした。 また、本研究で用いるクロスカップリング反応についても、ニッケル、銅に加えてコバルト、鉄触媒系を開発し、それぞれ、特徴的な触媒機能を有していることを明らかにした。実際に、ミコール酸の合成研究の過程で、これら触媒系の比較検討を行い、基質の構造によって使い分けることが重要であることを明らかにしている。 上記のように当初目的に必要な合成手法の開発は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
すでに、シクロプロパン含有ビルディングブロックを開発し、これがシクロプロパン含有脂肪酸類の合成に有効であることを明らかにした。 シクロプロパン環がsp3炭素からなることより、今後はその立体化学を制御することが必要であるので、光学活性なビルディングブロックの合成を行い、複数のシクロプロパン環を有する化合物群の立体選択的な合成を目指す。また、それらの脂質類の合成と生理活性の解明を目指す。 これらとは別に、飽和炭素骨格を効率よく合成する合成手法の開発についても合わせて進めることにより、飽和炭素骨格よりなる中分子合成手法の確立を目指す。
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