研究実績の概要 |
本研究では、クロスカップリング反応によるアルキル基導入を基盤とする中分子合成について取り組んだ。先に我々は、種々の遷移金属塩化物とブタジエンのような不飽和炭化水素添加剤の組み合わせが、ハロゲン化アルキルとアルキルグリニャール試薬とのクロスカップリング反応による飽和炭素鎖構築に有効であることを報告している。本手法を用い、希少脂肪酸であるシクロプロパン含有脂肪酸(CFA)の自在合成に取り組んだ。具体的にはシクロプロパンにブロモメチル基とシリルオキシエチル基を有する新規合成素子を開発し、C-Br結合でのクロスカップリング反応と続くシリルオキシ基のブロモ基への変換とクロスカップリング反応により、種々のCFAを高効率に合成できることを明らかにした。さらに、本手法を発展させることにより、結核菌の最外殻に存在する超長鎖脂肪酸であるミコール酸の合成に取り組んだ。ミコール酸は2つのシクロプロパン環を有する炭素数80超の脂肪酸である。Bairdらの全合成の鍵中間体である2つのシクロプロパン環を有する38炭素からなる部分構造を3回のクロスカップリング反応を反復して行うことにより、総収率32%で構築した。本手法は、様々な希少脂肪酸の供給を通じて生物活性脂質類などの中分子合成に貢献するものと期待できる。 また、本研究の過程において、アルキル鎖による多環芳香族化合物の光物性制御が可能であることを明らかにした。具体的には、ピレンの1,3,6,8位にアルキル基を、長さを変えて系統的に導入したところ、適切なアルキル基の場合には、固体状態において単分子由来の蛍光が観測されることを明らかにした。これは、固体状態においてピレンがエキシマー発光を呈することとは対照的である。さらに、ピレンとオクタフルオロナフタレンとの共結晶の機械的刺激に対する光物性変化がアルキル基によって制御可能であることもあわせて明らかにした。
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