研究実績の概要 |
平成30年度は、ハロゲンダンスの合成的有用性を示すため、多置換ピロール天然物の合成研究に取り組んだ。すなわち、α, βジブロモピロール誘導体に対して、ハロゲンダンスを行い、プロトン化により反応を停止し、β, β-ジブロモピロールを得た。この二つのブロモ基をそれぞれアリール化することでningalin Bの全合成を達成した。さらに、ハロゲンダンスの後、有機亜鉛反応剤へのトランスメタル化を経て根岸カップリングを行い、ラメラリン類の合成に必要な、全置換ピロール構造の構築に成功した。以上の結果から、「ブロモ基が分子内で動きながらワンポットで二つの結合を形成する」ハロゲンダンスの合成的有用性を示すことができた。 次に、2,3-ジブロモチオフェンや2,5-ジブロモチオフェンを基質として、ハロゲンダンス前の短寿命有機リチウムを捕捉する条件を検討した。具体的には、フローマイクロリアクターを用いて、反応温度と反応時間の効果を調べた。その結果、2,3-ジブロモチオフェンについては、合成的に満足できる収率でハロゲンダンス前の短寿命有機リチウムを選択的に捕捉した。また、この有機リチウムは多様な求電子剤と反応させることができ、対応する生成物をおおむね収率よく得た。一方で、2,5-ジブロモチオフェンを基質とした場合、詳細な反応条件の検討にもかかわらず、ハロゲンダンスを選択的に停止することはできなかった。 バッチ系ではハロゲンダンスの後に開環反応を経て分解するチアゾールについて、フローマイクロリタクターにより対応する有機リチウムを捕捉する条件を検討した。その結果、求電子剤によって最適な反応温度と反応時間は異なるものの、ハロゲンダンス前の有機リチウム種を捕捉することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
フローマイクロリアクターにより、2,3-ジブロモチオフェンの高い反応性を制御し、同一の化合物から異なるチエニルアニオンを捕捉する手法については、当初の段階で計画した通りの成果が得られている。また、独自に開発したハロゲンダンスをワンポットで根岸カップリングに展開する方法の応用として、ピロール天然物の合成研究に取り組み、ningalin Bの全合成を達成した。確立した一連の手法はラメラリン類の合成に展開可能であり、さらに二つのブロモ基の段階的変換手法についても見通しが立っている。 一方で、フローマイクロリアクターを用いて反応温度と反応時間を精密制御し、ハロゲンダンス前の短寿命有機リチウムの捕捉を目指した検討では、ブロモ基の置換位置によって、捕捉の成否が大きく分かれた。この結果については、脱プロトンとその後のハロゲンリチウム交換反応の相対速度により理解できた。そこで、2,5-ジブロモチオフェン由来の短寿命有機リチウムを捕捉するために、反応系中で不安定炭素アニオンをトランスメタル化によって安定化させる、in situトランスメタル化に取り組み、一定の予備的知見を得ている。
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