研究領域 | 反応集積化が導く中分子戦略:高次生物機能分子の創製 |
研究課題/領域番号 |
18H04419
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
友岡 克彦 九州大学, 先導物質化学研究所, 教授 (70207629)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 有機合成化学 / 中分子ユニット / クリック反応 / 分子ハイブリッド化 |
研究実績の概要 |
分子ハイブリッド化法の仕組みとして,高歪みの中員環アルキンとアジドの付加環化反応(Huisgen反応)を利用したクリック反応は極めて重要であるが,中員環アルキンの合成や安定性,反応の選択性に難があった.これに対して本申請者は先に,従来の欠点を解消した新型中員環アルキンとして「環内に二つの窒素官能基(もしくは各種ヘテロ官能基)を有する9員環のアルキン」4,8-diazacyclononyne(DACN)およびその誘導体を考案した.この分子は合成容易であるとともに,高いクリック反応性,優れた熱的安定性,優れた反応特異性を有し,また多様な分子ユニットを導入することが可能であるなど多くの利点を有しており,従来の8員環アルキンを用いる分子連結法(第2世代クリック反応)とは一線を画す「第3世代クリック反応」と称すべきものである.本研究はこのDACNの効率的合成法の開発と多機能化を検討するとともに各種の応用研究を行うことを目的としている.本年度は特に,DACNの基本骨格構築法の改良と新型DACNの開発について検討した.その結果として,先に開発に成功しているワンポット合成法の適用範囲を広げて多様なDACNを効率的に合成することに成功した.また,DACNの環内窒素上の官能基を従来のtosyl基からnosyl基もしくはFmoc基に変えた新型DACNの合成に成功した.これらの官能基はtosyl基に比べて除去,変換が容易であり多様な誘導化が可能である.また,DACNの環内窒素上の官能基をmesyl基に変えた新型DACN(Ms-DACN)の合成にも成功した.Ms-DACNは従来のDACNに比べて水溶性が高くまた立体障害が小さいために反応性が高いという特性を有しており,多様な応用が期待される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
分子ハイブリッド化の要となるクリック反応素子として含ヘテロ9員環アルキン4,8-diazacyclononyne(DACN)を設計,開発した.DACNやその類縁体のクリック反応性について,ベンジルアジドとの反応を検討した結果,それらは従来用いられていた8員環アルキンOCTよりも速やかに反応することが,一方,通常の取扱いにおいてはOCTよりもはるかに安定であるという優れた特性を有していることが明らかになった.またDACN類のアルキン部位のクリック反応性は環員数とヘテロ官能基の種類を選択することで自在に調節することができる.本研究ではDACNの合成法の改良に取り組み,市販の2-butyne-1,4-diolのコバルト錯体化,1,3-ジアミン誘導体との二重Nicholas反応,コバルトの除去,の三工程をワンポットで収率良く行うことに成功し,高効率合成法を確立した.この手法により合成されたDACNは関東化学株式会社より市販され,多くの研究者が容易に利用できる様になった.本研究ではまた,DACNの高機能化について検討し,環上へヒドロキシ基を導入したDACN-OHや,環内窒素置換基をtosyl基からnosyl基,Fmoc基,mesyl基などに変えた新型DACNの合成に成功した.さらに本研究では,DACN類の応用研究に関して,本領域内外の研究者との共同研究,研究連携を数多く実施した.
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今後の研究の推進方策 |
本年度は特に,生体分子を認識,標識化する中分子を簡便に合成可能にする新規な機能性物質として「DACNオリゴマー」の創製を検討する.すなわち,10~20程度のDACNをオリゴマー化させて,それにクリック反応を介して生物活性物質を集積化させる.これにより,特定の細胞や細胞器官に発現する生体分子を多点で認識することができる中分子が創製できるものと期待される.さらに,生物活性物質とともに適切な標識基をクリック反応で導入することで,標的とする生体分子の標識化にも活用できると考えられる.具体的には,DACNを導入したアクリル酸オリゴマーやオリゴペプチドの合成と,それに対してアジド化された糖鎖や抗体,生物活性物質などの分子認識部位や蛍光基などの標識基をクリック反応で導入して,その機能評価を行う計画である.
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