研究領域 | 反応集積化が導く中分子戦略:高次生物機能分子の創製 |
研究課題/領域番号 |
18H04421
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
大石 徹 九州大学, 理学研究院, 教授 (90241520)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 中分子 / 反応集積化 / 超炭素鎖化合物 / 生物機能解析 / フローマイクロ合成 |
研究実績の概要 |
平成30年度は,アンフィジノール3(AM3)の全合成による絶対配置の確認および構造活性相関研究を行った。AM3は渦鞭毛藻Amphidinium klebsiiが産生する分子量1326の超炭素鎖化合物であり,強力な抗真菌活性を示す。AM3はポリオール部分や二つのTHP環部分およびポリエン部分が直鎖状に連なった特徴的な構造を有する。AM3の絶対配置は1999年に提出された。しかし多くの不斉中心が鎖状部分に存在するため,絶対配置の最終的な決定は困難であった。本申請者は,収束的な合成戦略によるAM3の世界初の全合成に成功した。合成過程の難題である分子量が2000程度の2大セグメント,すなわちポリオール部分に相当するC1-C29セグメント,およびビステトラヒドロピラン部分に相当するC30-C52セグメントの連結には大きな困難を伴ったが,種々の条件検討の結果,鈴木-宮浦カップリングを利用することで克服できた。さらに,ポリエン部分に相当するC53-C67セグメントとのJukia-Kocienskiオレフィン化反応を経由して,各セグメントから僅か5段階(最長直線工程数:40段階,総工程数:112段階)で合成する方法を開発した。本法は他のアンフィジノール類縁体の合成にも応用可能な一般性のある合成法である。さらに簡略化AM3アナログ分子の設計と合成を行い,天然物と同程度の抗真菌活性を有する人工分子の創製に世界で初めて成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
分子量1326の中分子であるアンフィジノール3(AM3)の,収束的な合成戦略による世界初の全合成に成功したため。さらに,簡略化AM3アナログ分子の設計と合成を行い,天然物と同程度の抗真菌活性を有する人工分子の創製に初めて成功し,新しい抗真菌剤開発への道を開くとともに,作用機構に関する重要な示唆を与えたため。
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今後の研究の推進方策 |
ブレビスルセナール-F(KBT-F)は,ニュージーランドで発生した赤潮の原因毒であり,分子量が2054の超炭素鎖化合物である。KBT-Fの環構造を持つ部分の相対配置はNMRにより決定されているが,環同士の連結部分の相対配置は明らかになっていない。また,5個の不斉炭素原子についても,相対配置が明らかになっていない。そのため,可能なジアステレオマーの数は,28個,すなわち256個と膨大な数になる。これらのすべてのジアステレオマーを合成することは困難であるため,計算科学と合成化学を組み合わせた戦略により相対配置の決定を行う計画である。1)マクロモデルを用いて可能な256個のジアステレオマーについて配座解析を行い,ボルツマン分布を求める。2)得られた構造情報を基に,スパルタンを用いてポピュレーションを加味した13C NMRの化学シフトを計算する。3)天然物の13C NMRの化学シフトとの比較を行い,差の小さいものを選別する。4)選別した候補化合物を化学合成し,天然物の13C NMRとの比較を行い,KBT-Fの全相対配置を決定する。KBT-FのVWX環部に相当するジアステレオマーの候補化合物は以下の様に合成する計画である。すなわち,W環部は,ビニロガス向山アルドール型の反応を用いて構築することにし, X環はWittigオレフィン化反応,分子内オキサMichael反応を経由して合成する計画を立てた。
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