研究領域 | 反応集積化が導く中分子戦略:高次生物機能分子の創製 |
研究課題/領域番号 |
18H04433
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研究機関 | 公益財団法人サントリー生命科学財団 |
研究代表者 |
島本 啓子 公益財団法人サントリー生命科学財団, 生物有機科学研究所・構造生命科学研究部, 主幹研究員 (70235638)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 糖脂質 / 糖鎖 / 脂質 / 生体膜 / 膜物性 / 膜挿入 |
研究実績の概要 |
膜タンパク質が正常な機能を発現するには、細胞内のリボソームで合成されたタンパク質が正しい三次元構造と配向性をもって細胞膜へ挿入される必要がある。大腸菌内膜における膜タンパク質挿入では、生理的濃度のジアシルグリセロール(DAG)が挿入を抑制し、糖脂質MPIase (Membrane Protein Integrase)が挿入を回復させる。MPIase は、3種のアミノ糖から成るユニットが10回程度繰り返した糖鎖部とDAGがピロリン酸を介して結合した糖脂質である。酵素処理で得られたMPIase糖鎖部は、膜タンパク質の凝集を抑制するシャペロン様の効果をもつが、膜タンパク質挿入を引き起こすことはできず、脂質部で膜にアンカリングされていることが挿入活性に必須であることが分かった。一方、MPIaseの最小単位である3糖ピロリン脂質[mini-MPIase-3]を化学合成したところ、天然MPIaseよりも弱いものの、膜挿入活性を示した。 合成類縁体を用いた構造活性相関研究および膜物性解析の結果、次のような活性機構を推定した。 ① リボソームで作られた膜タンパク質は疎水性が高く、そのままでは凝集する ② MPIaseの糖鎖部が膜上でタンパク質を捕捉し、凝集を抑制する ③ MPIaseは周辺の膜の運動性を上げ、疎水面を露出させる ④ MPIaseから膜へとタンパク質が受け渡され、膜挿入が進行する。現時点では、膜上でのMPIaseの会合状態やタンパク質との複合体の構造は不明である。これらを明らかにするために、mini-MPIase-3の機能化を試みている。Fuc4NAcの末端水酸基にリンカーを介して、蛍光基やスピン標識基を導入することに成功したが、活性低下が見られるため、活性を維持した機能性類縁体の合成に取り組む必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
合成したmini-MPIase-3に活性があったことから、構造活性相関研究を実施し、活性機構を推定することができた。また、合成品を用いて膜物性を解析し、糖脂質が膜物性を変化させていることを明らかにすることができた。推定生合成中間体を合成し、大腸菌から中間体を検出することで、生合成に関与する酵素を特定できた。
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今後の研究の推進方策 |
天然物と合成品との比較により、糖鎖長は活性の強さに寄与していることが明らかになったので、糖鎖伸長を目指す。糖鎖ユニットの立体選択的な連結のためには、各単糖の保護基を変更する必要があり、それに合わせた合成経路を最適化する。単純に伸長するだけでなく、人工的にリンカーを導入したり、ポリマーに付加するなどして、簡単に活性向上させる方策を検討する。この位置に蛍光基やスピン標識を導入するが、リンカーや蛍光基を工夫して、活性を維持した機能性類縁体を合成する。合成した類縁体を使って、糖鎖-糖鎖相互作用、糖鎖-タンパク質相互作用を評価する方法を確立する。できるだけ定量的に評価できる系を検討し、膜挿入に必要な官能基の寄与を見積もる。
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