研究領域 | 太陽地球圏環境予測:我々が生きる宇宙の理解とその変動に対応する社会基盤の形成 |
研究課題/領域番号 |
18H04442
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
岩井 一正 名古屋大学, 宇宙地球環境研究所, 准教授 (00725848)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 宇宙天気 / 太陽風 / データ同化 / 電波天文学 / 太陽嵐 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、独自の電波望遠鏡を用いて太陽嵐のIPS観測を行っている。本観測は新学術領域の計画研究A02班の一翼を担っており、本年度を通じて安定的運用に努めた結果、ほぼ100%に近い運用効率が得られた。加えて、本年度は、電磁流体シミュレーションに、IPS観測で得られたコロナ質量放出(CME)の情報を付加する開発研究を行った。元となる電磁流体シミュレーションには名古屋大学とNICTで共同運用されているSUSANOOを用いた。このコードは太陽表面の磁場と白色光によるコロナグラフ観測をもとに、太陽-地球間距離の0.13倍(0.13AU)の位置の太陽風やCMEの情報をを推定し計算の内側境界条件としている。今回新たに開発したシステムでは、まず可視光のコロナグラフ観測からCMEの初期速度を求め、SUSANOOを用いて伝搬の数値シミュレーションを行う。そこで得られる内部太陽圏の3次元密度分布を元に、地球から各電波天体への視線に沿った電波の散乱を解くことで擬似的なIPSデータが再現される。この計算を複数のCME初期速度で行い、それぞれから得られる擬似IPSデータの中から、実際に観測されたIPSデータに最も近い結果を選択し、そのCMEの地球への到来時刻を予報値とすることで、データ同化型の予報を実現した。2017年9月に発生したCMEに対して本シミュレーションを行った結果、実際のIPS観測に最も近い擬似IPSデータがCMEの地球への到来を最もよく予報できることが示唆された。この結果は、IPSデータを用いることでCMEの予報精度を向上させることが可能であることを意味し、本結果を英文査読誌にて発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
応募者らが行っている電波観測データから得られる情報をMHDシミュレーションに取り込むデータ同化部分の開発研究を行い、計画通りに完成させることができた。更に開発システムを過去に観測された典型的な太陽嵐イベントに対して動作させた結果、想定通り、従来のシステムより予報精度が向上したことを明らかにできた。これらの結果をまとめ英文査読誌に投稿することができた。以上より、本研究課題は当初の予定通り順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
計画初年度に完成した電波観測データを用いたデータ同化型太陽嵐到来予測モデルを過去に観測された多数の太陽嵐イベントに対して動作させ、本システムがどの程度予報精度を向上できるか、統計的に明らかにする。その結果を論文にまとめ、英文査読誌に投稿する。 開発したシステムを日本の宇宙天気予報業務を担う情報通信研究機構の宇宙天気予報システムに組み込み、リアルタイムに運用することで、実際の予報業務で活用する。 現在開発したシステムはCME起因の太陽嵐に特化した予報システムだが、研究代表者の実施するIPS観測では、高速太陽風が原因の擾乱現象に対しても検出能力を持っている。そこで、IPS観測で得られる高速太陽風の情報を取り込んだ更なるデータ同化システムの開発研究を行い、CME・高速太陽風の両方を予報できるシステムに拡張する。その結果を論文にまとめて投稿する。
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