研究領域 | 太陽地球圏環境予測:我々が生きる宇宙の理解とその変動に対応する社会基盤の形成 |
研究課題/領域番号 |
18H04443
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
木村 芳文 名古屋大学, 多元数理科学研究科, 教授 (70169944)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 渦・磁力線リコネクション / 地球双極子磁場 / ネットワークの脆弱性 / グラフ理論 / ネットワークの過渡的現象 |
研究実績の概要 |
本研究課題は太陽活動の周期性/間欠性における数理的構造とそこに存在するメカニズムを解明し,それらが地球環境に及ぼす影響を数理モデルを構築することによって理解し,予兆を察知し正確な予測に寄与することを目的とする.研究にあたっては, 現場との連携による衛星データのデータマイニングに基づき,2つの研究テーマ [a] 太陽活動における非線形現象の考察とモデルの構築 : (1) 渦と磁力線のリコネクションモデル, (2) 地球双極子磁場の摂動モデル [b] 太陽活動の地球環境への影響を示すための指標の考案:(1) 電力通信ネットワークのもつ脆弱性の指標のグラフ理論に基づく開発,(2) グラフダイナミカルシステムによるネットワークの過渡的現象についてモデル構築を図り,そこで得られたモデルの有効性を既存のモデルとの比較及び流体方程式・MHD方程式などの数値解析により実証することによって新たなデータ解析に生かすという研究サイクルの構築を目指すものである. 本年度は継続の初年度としてテーマ [a](1)の渦と磁力線のリコネクションモデルについて研究をさらに進め、国際会議において発表を行い,論文を執筆した.具体的にはCambridge大学のH.K. Moffatt教授との共同研究として渦のリコネクションのモデルを発展させ,2つの対称に配置された有限断面積をもつ渦輪のリコネクションに関わる距離、曲率、断面半径の発展を記述する力学系を導出し、様々な物理量の時間スケーリングを明らかにした.この力学系はNavier-Stokes方程式と等価であり、その特異性を特徴づけるものと考えられ,渦リコネクションが流体方程式の特異性を解き明かす鍵になる可能性があることを示している.ここで得られた知見を磁力線のリコネクションに対応させることは非常に興味深い問題であると言える.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書に記載した研究実施計画としては項目[a]の(1) 渦と磁力線のリコネクションモデルと項目[b]の(1)の電力通信ネットワークのもつ脆弱性の指標のグラフ理論に基づく開発、の2つを挙げた。これらのうち前者についてはNavier-Stokes方程式の特異性の問題にからみ渦のリコネクションモデルを記述する力学系を導出し,その結果,様々な物理量のスケーリング則を説明することができ,その成果を発表した。有限の断面積をもつ渦輪のリコネクションにおける特異性のスケーリング則をNavier-Stokes方程式と等価な力学系で説明できたことは, これまでのBiot-Savartモデルを用いてのEuler方程式の議論を超えて大きな成果に繋がる可能性があると思う。これを研究課題に即した磁力線のリコネクションの問題、および渦と磁力線が相互作用をする場合に適用することは今後の重要な課題であると言える。 一方、もう一つの項目[b]の(1) 電力通信ネットワークのもつ脆弱性の指標のグラフ理論に基づく開発については連携研究者の大平徹教授と藤江双葉准教授との連携が思うように進まず目立った進展が得られなかった。ネットワークの脆弱性の指標作成は本研究課題の大きなテーマの一つであるので研究の推進を今後の課題としたい。以上の結果として区分を「(2) おおむね順調に進展している。」とする。
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今後の研究の推進方策 |
前項で述べたように、これまでに項目[a] (1) の「渦と磁力線のリコネクションモデル」についてはある程度の結果を得ることができた。Navier-Stokes方程式と等価な力学系を用いて得られたことはクレイ数学研究所のミレニアム問題の解決に大きな寄与することが期待できる.数値解析を用いてこの結果をより現実の問題に発展させることは問題解決のために是非必要な研究であると言え,ひいては磁力線のリコネクションの理解を格段に進歩させることが期待できると考える。 さらに磁力線のリコネクションの問題についてはまず最初にひずみ流のもとでの非平行配置の直線磁力線の問題から始め、速度場にローレンツ力の影響を考慮することによって考察を行う。さらに渦と磁力線が共存する問題についても議論を進める予定である。より興味深い問題は渦と磁力線の相互作用が存在する場合であろう.これについては今後の進展に伴い研究を進めたいと考えている. 一方ネットワークの脆弱性の指標作成は本研究課題の大きなテーマの一つであるが、研究がやや遅れているので連携研究者の藤江双葉准教授と大平徹教授との連携によってグラフの連結性に関する研究を有向グラフに対して発展させ、フロー付きグラフ理論によるモデル解析によってネットワークの過渡的現象に対する最適化問題を考察することによって研究を進める予定である。 本研究課題の期間は2年間であり、最終年度として残された問題の整理と新たな研究内容の提案を行ないたいと考えている。
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