研究領域 | 太陽地球圏環境予測:我々が生きる宇宙の理解とその変動に対応する社会基盤の形成 |
研究課題/領域番号 |
18H04445
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
三宅 洋平 神戸大学, 計算科学教育センター, 准教授 (50547396)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 衛星帯電 / 宇宙プラズマ / プラズマ波動 / 超高層物理学 / 数値シミュレーション |
研究実績の概要 |
次世代太陽地球圏環境(宇宙天気)予報システムの構築に向け、衛星障害の発生確率が高いとされる地球電磁気圏じょう乱時の異常衛星帯電を、経験則ではなく物理機構に基づき予測する手法の確立が急務である。H30年度は、3次元の大規模プラズマ粒子シミュレーション解析により、プラズマ波動電界中の衛星帯電現象の物理メカニズムの解明を試みた。主な成果は以下の通りである。 ①宇宙プラズマ空間には、偏波特性が異なる多様なプラズマ波動モードが存在する。本年度は、特に円偏波と直線偏波を示す2種類の外部波動電界に対する衛星電位応答に着目した。結果として、時間平均された衛星電位の上昇は両ケースにおける共通の特徴として確認された一方、以下の差異が見られた。円偏波では波動周期内の衛星電位変動はほとんど見られなかったが、直線偏波では1波動周期内に2回の衛星電位の上昇および下降が確認された。これは直線偏波では波動電界強度が時間とともに変動し、かつ1波動周期内に2回極大値をもつためと考えられる。ただし、電界強度と衛星電位の極大の時間は一致せず、衛星構体の静電容量に依存する帯電応答時間に応じた時間遅れが存在することが示唆された。これは静電容量が異なる複数の構体から成る衛星システムにおいて、電位応答が部位毎に異なる可能性を示唆しており、衛星障害を予防する上でも一定の考慮が必要な結果である。 ②科学衛星では衛星電位計測値から背景プラズマの密度変化を推定する手法がしばしば用いられる。この推定手法は衛星電位変化が背景プラズマのパラメータ変動と一対一で対応するという前提に基づいているが、プラズマ波動電界が存在する場合には背景プラズマ密度の変化にかかわらず衛星電位変動が生じうる。このことを計算機シミュレーション解析によって実証し、従来手法で起こりうる密度推定誤差について考察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
H30年度中の研究活動により、より多岐に渡る静電環境じょう乱に対する衛星電位応答の知見が集積された。一方で、地球電磁気環境じょう乱の時間スケールは広範にわたっており、特にゆっくりとした環境変動に対する衛星電位変動予測の実現に向けては乗り越えるべき課題も多い。これを解決するために、これまでに得られた知見を基礎とする準解析衛星帯電モデルや、MHDスケールの環境変動を衛星電位予測計算に取り込むための計算モジュールの構築を進めているが、まだ動作検証にまで至っていない。この現状を考慮し、当初設定した研究の目的に照らして「やや遅れている」と自己評価し、2019年度の活動を加速させる計画である。
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今後の研究の推進方策 |
H30年度の進捗評価を考慮し、2019年度は準解析衛星帯電モデルの構築と、MHDもしくはハイブリッドプラズマシミュレーションモデルと帯電予測の結合計算の実現に向けた取り組みを加速させる。準解析衛星帯電モデルについては、衛星電位に時間発展方程式に含まれるプラズマ電流項を、これまでのシミュレーション解析結果に基づいた準解析もしくは経験モデルとして記述する方針で開発を進める。後者の結合計算については、現在別の科研費課題として推進されているマルチスケール連成計算フレームワーク開発と連携することにより、 1. 地球磁気圏グローバルMHDシミュレーション 2. 地球磁気圏高エネルギー粒子環境のミクロ物理プロセスPICシミュレーション 3. 人工衛星帯電現象のPICシミュレーション を組み合わせた「MHD・PIC連成シミュレーションモデル」を構築し、地球電磁気圏じょう乱時の異常衛星帯電予測実現に向けた足掛かりとする計画である。
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